#11【書評】ゼロからの『資本論』
今日紹介する本は斎藤幸平著「ゼロからの『資本論』」だ。
名前の通り、資本論において展開されるマルクスの思想をできるだけ噛み砕きながら、現代に存在しているさまざまな問題に対して問題提起を行なっていく一冊になっていく。
元々斎藤幸平氏は「人新生の資本論」など現代における日本の中で最も著名なマルクス主義の学者と言える。
マルクス主義と聞くとそれだけでちょっと拒否感を覚える人もいるかもしれないが、それはかなり勿体無いと思う。
また、マルクスの著作はどれも文体が難しく、日本語訳版でもなかなか理解に苦労するものが多い。(実際に私自身資本論を読もうと思い書店に行ってパラパラ立ち読みをしていたが、あまりに難解だっため結局購入を断念した)
とりあえず資本論の大まかな論旨を掴むためにはこの本はおすすめだと思う。
マルクス主義的視点を持つことの重要性
本書はマルクス主義者である著者が読者に分かりやすいようにマルクスの著作「資本論」について、現代との関連させながら解説していく。
一般的にもはや哲学的領域に入り込んでいくマルクス主義を読者にもわかりやすく噛み砕いて説明してくれているため、過去全くマルクス主義に触れてきていない読者にも十分にお勧めできる。(むしろそういう方に向けて書かれている)
マルクス主義と聞くと、資本主義と対をなす主義思想と解釈されることも多い。実際東西冷戦時代の、西の資本主義と東のマルクス主義の対立はソ連が崩壊したことで事実上資本主義の勝利と解釈されており、マルクス主義は資本主義に対して劣った主義だと思われている場合が多い。
しかし、まずそもそもソ連が標榜していたマルクス主義と実際のマルクス主義には乖離があることが本書を読むとわかる。さらに、資本主義の現代をマルクス主義から眺めることの重要性、つまり、資本主義をマルクス主義の目線から見てみることで資本主義の問題点や課題が見えてくるということを本書は教えてくれる。
そう、マルクス主義という一つの視点を持つことによって、現代に横たわるさまざまな問題をより多面的に観察し、それに対する解決策を提案できるようになるのだ。
資本主義の時代に生まれ成長している我々にとって、資本主義での前提は常識であり、疑うこともなく日常を過ごしている。しかし、その常識も歴史的にみるとかなり特異であること、そして我々は我々で異常な世の中に暮らしているのだということがマルクス主義的視点によって明らかになる。
例えば、余剰価値の概念や、労働に関する概念は「働く」という行為を解釈する上で普段ならば全く気にしない問題を提起し、批判している。
つまるところ、本書を読むことで新しい視点が手に入ると言えるだろう。
知らない考え方を柔軟に吸収するということ
これはマルクス主義に限らず言えることであるが、一般的に我々は自分に都合がいい情報や考え方を採用しがちである。
そりゃそうだと言えるかもしれないが、これでは知らない間に視点が単一化してしまう。
もちろん、自分にとって重要なことや都合のいいことを集め、自らの思考の軸を固めていくことも重要であることは言うまでもない。
しかし、それだけでもダメなのである。時には自分が何となく気に食わない考え方や好きではないものを取り込んで理解する努力も必要である。
自分にとっていいことも悪いことも柔軟に取り込んで、消化していく知的力強さのようなものを鍛えるのにこの本はうってつけだろう。
私自身、これまでマルクス主義に対する理解は全くない上に、どちらかといえば資本主義寄り的な考え方であった。しかし、本書を読んだことで自分が今考えていることとマルクス主義が意外にも調和する場面も見つけることができた。
1番もったいないのは、食わず嫌いをしてしまうことだ。「何となくやだ!」と言うのは自分の思考の幅を広げるチャンスを自らみすみす逃してしまっていることと同じだ。
「ああ、世の中にはこんな考え方もあるんだ!!」と言う知的興奮を味合わせてくれる本書は、私にとって魅力的な本であったと言えるだろう。
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