【ハーブ天然ものがたり】銀梅花/マートル
穏やかなフトモモ科
銀梅花、学名 Myrtus communis ミルトス・コミュニス。
フトモモ科ギンバイカ属の常緑樹で地中海沿岸原産とされています。
英名はマートル、ドイツ名でミュルテ。
銀梅花というだけあって、まるみを帯びた5弁の花は梅にも似ていますが、雄しべが多く華やかさが増すので、結婚式の飾りや花嫁のブーケによく使われ「祝いの木」とも呼ばれます。
ティトリーやユーカリの木と同じフトモモ科ですが、香りはもっと穏やかで葉を揉むとすっきりした芳香を楽しむことができます。
精油は「マートル」という名で市販されています。
銀梅花の実はオリーブに似て、ソーセージやお肉料理の風味づけに使われます。生食もできますが苦味があるので、完熟してから乾燥したものをスパイスとして使うことが多いです。
ヨーロッパでは果実や葉を用いたミルト(Mirto)というリキュールが有名です。
フトモモ科ハーブにはほかにも、マートルにレモンの香りを足したようなレモンマートルがあります。ブッシュタッカーのひとつで伝統的にアボリジニの人々が薬用に、食用に使用してきました。
最近では西オーストラリア産のハニーマートル(メラレウカ属)も出まわるようになり、はちみつのような甘い香りが加味されたフトモモ科ハーブとして人気が高まっているようです。
銀梅花/マートルに似ているユーカリ、ティトリーと、
レモンマートルの香りリファレンスともいえるレモンやレモングラスなどは、どの植物も地上で生き抜くための抗菌、殺菌力をもち、香りも「きっぱり」主張してきます。
大地に根づき、郷に従いつつ、生き抜く手段を開花させてきた「たたき上げ」感、下積み力のようなものを感じさせ、体調を崩しているときなんかは、香りのなかに頼もしさも見え隠れして、芳香させると一瞬にして安堵感に包まれます。
地上で生き抜くコツなら任せてよ!といわんばかりの即レス対応で、からだや環境の不具合にコミットしてくれるような感じです。
銀梅花やレモンマートルの抗菌力だってもちろん素晴らしいですし、決して引けを取るものではないんですが、香りだけでいうならマートルは、土元素界比率の多い地表環境で、よろしく生き抜くための諸事情にはあまり深入りせず、足場を一段高くしたところでふわっと穏やかに香っている、という印象があります。
ヨーロッパではマートルは伝統的に香水に使用され、愛の水薬と呼ばれる催淫剤に使われ、つまったところをクリアにする効果があるとして呼吸器や尿路のさまざまな症状に使われてきました。
葉を乾燥させたものはハーブティとしてはもちろん、きめ細かい粉状にしてパウダーにしても心地好いです。
肺や気管支の不調が慢性化したり、花粉症対策に「ユーカリやティトリーの香りだときつすぎるなぁ」と感じる方には、銀梅花/マートルの精油が、よい相棒になるのではないかな、と。
*精油の長期使用や、いちどに大量に使用することは粘膜や皮膚を刺激することがあるので上手におつきあいください。
地上の花嫁にならなかった巫女
銀梅花/マートルは、古代シュメールでは豊穣の女神イナンナ(イシュタル)の聖花でした。
またギリシアでは豊穣の女神デメテルと女神アフロディテに、古代ローマでは女神ウェヌス(ヴィーナス)に捧げる花とされ、毎春開催されるウェネラリア祭では女神像をきれいに洗い、銀梅花の花を飾り、女たちも銀梅花の花冠をかぶって入浴するという一連の儀式がありました。
銀梅花に関する神話はいくつかありますが、女神ヴィーナスのお側仕えをしていた巫女が銀梅花に変身したというのが比較的有名と思います。
巫女には熱狂的な求婚者がおり、ヴィーナスは側仕えのなかでもお気に入りだった巫女を、求婚者からまもるためにハーブに変化させたと伝えられています。
結婚をさけるために銀梅花になった巫女ハーブが、結婚式に欠かせないものとして「祝いの木」と呼ばれるようになったのもフシギな感じがします。
花嫁にならない道を選んだ銀梅花が、花嫁を祝福するハーブとしてポピュラーになったのはなぜでしょうか。
花嫁の元型、アダムの嫁について妄想考察してみますと、男性原理とされるアダムには嫁が2人いた説があります。
最初の妻はリリス。
現代では悪名高き夜の女王、魔女の元祖とも呼ばれ、【ハーブ天然ものがたり】シリーズのレモングラスやマジョラムでも少し触れています。
リリスの系譜はイナンナ/イシュタル、アスタルト/アスタロト⇒ヴィーナス/アフロディテ⇒聖母マリアへと、いろんな思惑、プロパガンダの波に揉まれつつも、なんとか現代に伝承されています。
聖書の創世記に「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。男と女にかたどって創造された」という一節が、アダムの肋骨からイヴをつくった説のまえに登場します。
アダムの花嫁(になるはずだった)リリスは、2人とも同じ土から造られたのだから平等だと主張してアダムと口論になり、結局花嫁になることを拒否してアダムのもとを去り、紅海沿岸に住みついたという伝説があります。
陰陽分割、ヒトのかたちを男女というひな形に落とし込むプロセスもいろいろと試行錯誤があったんですね。
上位(両性)存在である神々の創造分化によって生み出された男性原理のアダムと、女性原理のリリス。
きっとはじめての分離では、うまいこと陰陽配分できなくて、両性的なプレゼンスは男女ともに保たれていたのではないかと。
それを失うことを拒んだのが女性性が比較的多めのリリスだったのかな、と妄想しています。
とはいえ男女分割の初めてチャレンジ以降も、神々の創造降下は続いてゆき、もっと従順な女性原理をつくりだすために、アダムのなかに残っている女性性を肋骨から取りだして、2番目の花嫁が誕生した、ということではないのかな、と妄想はつづきます。
銀梅花/マートルの誕生秘話は、リリスと同じ系譜にあると思われる女神ヴィーナスの変化魔法によるもの。
地上の花嫁となるべく生み出された2番目の妻イヴをサポートするために、ヴィーナスの分身でもある巫女がハーブとして地上降下し、天界とのきざはしが断たれないよう、媒酌人になってくれたのかもしれません。
神の嫁、人の嫁
リリスは神の嫁に落ちつき、イブは人の嫁に落ちつき、アダムという地上的男性原理の上と下に、天嫁と地嫁が鎮座するという構図は、古い時代に設定された、地球物語のひな型になっているような気がします。
天嫁については、ある時期から光と闇に2分されてしまったので、女神アスタルトが悪魔アスタロトにすり替えられたように、リリスを象徴とする女性原理の元祖パワーは、悪い魔女とか夜の女王と恐れられ、忌み嫌うものとしてタブー領域に追いやられてしまいました。
けれど時代とともにゆっくりと、リリスとイヴの統合はすすめられ、女性原理の光と闇は、いずれ祝いの木によってしっかりと結ばれるんだろうなと想像しています。媒酌ハーブはもちろん銀梅花ってことで。
銀梅花が人類にとって、重要な天啓を受けとるためのハーブと示しているのは、世界5大宗教のひとつ、ユダヤ教に伝わるカバラ思想にも見てとることができます。
カバラはユダヤ教の伝統に基づいた神秘主義思想というのが一般的な見解と思います。
独特の宇宙観があり、奥が深いのできちんと説明できるほど私もよくわかっていませんが、イギリスで神秘思想を中心に著述活動をされていたダイアン・フォーチュン(1890年 - 1946年)の「神秘のカバラー」から少し引用させて頂きます。
ダイアンさんの本ではティファレトに相応する植物の事例としてもっぱら葡萄とディオニュソス神がとりあげられています。
ディオニュソス神も両性具有的に描かれ、半神半人で地上世界を放浪し、最終的に天界にもどったという神話が、神界から陰陽分極して地上に降り、降りたらこんどは地球から太陽までの小径を昇るように歩く(元ひとつへの統合)旅がはじまるよと、教えてくれている気がします。
*ディオニュソスと葡萄については【ハーブ天然ものがたり】葡萄 の記事も参考にしてくださるとうれしいです。
ティファレトというフェイズから、人類に啓示、直感、インスピレーションをもたらす神々の天啓は銀梅花をとおして、男性原理であるアダムその人が受けとる小径(パス)があると、伝えてくれているのかもしれません。
そもそも1なるものを分離して最初にできあがった2なるものは、アダムとリリスだったことを思うと、分離しきったあとはまたひとつに戻る(統合する)のが自然のはたらきなので、うんうん、いずれはそうなるよね、と。
リリスがアダムのもとを去り、完璧に姿をくらましたとはいえ、元ひとつだった片割れエネルギーである以上、知覚できないというだけで、どこかの次元には維持されているわけですから、アダム側も天嫁に向かったり地嫁に向かったりを繰り返しながら、振り幅を広げて天地往来のエキスパートになってゆく、というのが「エデンの園物語」の(未来的)オチなのではないかと。
そんな、はじめ人間アダムのエデンの園物語は、現代地球に生きる人類のひな型にだって十分なり得るだろうし、葡萄や銀梅花はもしかすると、元ひとつの小径を見つけて、パスの突破口をつくる鍵的ハーブなのかもしれません。
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お読みくださりありがとうございました。
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