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【ハーブ天然ものがたり】ガーデニア/くちなし


日本の黄色


たくあんや栗きんとんなどに天然着色料として古くから重用されてきた日本の黄色。

くちなし(梔子)の果実からとれる色素はカロチノイド系のクロシンで、
サフラン(パエリアの色)も同じ色素をもっています。

食べ物以外でも、くちなしの乾燥果実で布を染める手法は平安時代の十二単に使用され、支子色(ししいろ)と呼ばれます。

古今和歌集より

「山吹の 花色衣 主や誰 問へど答へず くちなしにして」 素性法師
山吹色の衣、おまえの主は誰、と聞いても答えない
口無しという名のクチナシで染めたものだから

「耳なしの 山のくちなし えてしかな 思ひの色の 下染めにせむ」 読み人知らず
耳なし山(奈良の耳成山)のクチナシの実が欲しい、下染めにそれを使って、誰にも知られぬ思いを(火の色で)染めるため
(耳なし口なしで、誰にも知られぬ思い)

くちなしの染め物は、黄色に赤をうっすら混ぜたような、山吹の花色に近いです。
江戸時代には「口無し」という名から、不言色いわぬいろと呼ばれていました。

実が熟しても割れないことから口無しと命名された説が有力ですが、ビロードのような白い花のたたずまいは「秘すれば花」をそのまま体現しているかのようで、香る和花の女王の御前では、おしゃべりも自然と止まってしまう。
くちなしの花咲くあたりいちめんに馥郁とした香りとともに静謐な気配が漂います。

くちなしの実を乾燥したものは山梔子さんししと呼ばれ10月から収穫がはじまります。
活用方法は染料や着色料のみならず日本薬局方にも収載された生薬で、炎症を抑えたり、利尿や止血、鎮静・鎮痙効果があるとして利用されています。

民間療法では、打撲、捻挫、腰痛に山梔子を煎じた汁を冷まして冷湿布することで熱を散らし、炎症を和らげるとして活用されてきました。

くちなしの実 photolibrary


不言にして雄弁


昭和のヒット歌謡曲にもなったくちなしは英名でケープジャスミンと呼ばれます。
花の香りがジャスミンのようだから、そして原産がアフリカのケープと勘違いしていたから、だそうです。

くちなしの原産は東アジア、日本では静岡県以西の温かい地域で自生します。
園芸用として品種改良された八重咲の花(果実をつけない)のほうが市場に流通しているので街中でよく目にします。

学名は Gardenia jasminoides(ガーデニア ジャスミノイデス)
アメリカではガーデニアの名で知られています。

ビロードのような質感、大輪の八重咲き、白いくちなしの花はアメリカのジャズシンガー、ビリー・ホリディ(1915年-1959年)が髪飾りに愛用していたシンボル・フラワーです。

あまりに有名な代表曲「奇妙な果実」の歌いだしは「南部の木には、変わった果実がなる…」からはじまり、木に吊るされた黒人の死体が朽ちてゆく様子を切々と(というか坦々と、というべきか)表現しています。

当時のアメリカでは黒人へのリンチ、暴行は日常事で「常識」ですらあったと思います。なにかがおかしいと感じながら、多くの人々が口をつぐみ、沈黙していた陰惨な事実を、ビリー・ホリディは歌うことで詳らかにしました。

ビリー・ホリディの歌声から伝わってくるのは深い深い「悲しみ」だけです。「怒り」の感情は全く感じられず、暴力に対して暴力を突き返す負の連鎖を断ち切った、偉業の歌でもあると感じています。
個人の事情や思惑を突き破り、当時のアメリカという生まれたばかりの民族魂を揺さぶるなにかが、ビリー・ホリディの発する声色に込められていたのだろうと思います。

もとより「奇妙な果実」を、当時公の場で歌うことはそうとう勇気のいることだったと思います。

映画「ユナイテッド・ステイツ vs ビリー・ホリディ」でも髪に飾られた大輪の花が印象的でした。
人種差別制度、時代のマジョリティ、体制派に屈することなく、言の葉をたいせつに表現している音楽は、いつ聞いても心を揺さぶります。


太白金星の白


白い花は光の色波長を吸収しないのが特徴ですが、くちなしや、ビターオレンジの花ネロリ、エーデルワイス、白木蓮やこぶし、タイサンボクの花など花弁がポテリンとした独特の白色を醸す花々は、すべてを包み込んでいるかのような存在感があります。

清廉潔白な白、に対して
太白金星の白、みたいな感じです。

白い花、というと可憐ではかなげ、もしくは高潔さや気品があり、「守ってあげたい」とか「お守り申し上げる」的なキモチと連動しやすいですが、太白金星的な白は逆に、こちらをつつみこむような頼もしさがあり、見ているだけでほぉっと一息、あんしんの吐息を誘います。

ハーブを身近に感じる方法として、ずいぶん以前からマインドマップを使っています。
あたまとこころをコトバや印象でつなぐときに便利なツールで、学名や科名、原産地や成分、効能など、学術的な記憶が必要とされる資格取得のときなどは、マインドマップをつくると覚えるのがらくちんです。

マインドマップは頭のなかみをそのまんま、脳内に近い形に描き出すことで、記憶の整理や発想をしやすくするもの、とウィキに説明されています。

脳がなにかを考えるたびに、思考を伝達する回路に生じる生体電磁抵抗が減少する。
これは森で小道を切り開くのに似ている。
最初は下生えを刈りながら、苦労して進まなければならない。
しかしそのおかげで、2度目にその道を通るのはずっと楽になる。
なんどもそこを通るうちに、下生えを刈る必要がほとんどないほどに、広い平らな道ができあがる。
脳の機能も同じである。
繰り返しにより、思考のパターンや地図ができれば、抵抗は減る。
反復が次の反復作業を楽にするのだ。
つまり脳内の出来事は起これば起こるほど、起こりやすくなるのである。

「ザ・マインドマップ」トニー・ブザン

だいじょうぶ
かっぽうぎ
大福餅
金星
絹のビロード
お蚕さんの羽
太陽光線の繊維
羽休め
白鳥
ちゃんと受け止める
どんとこい
つつむ

くちなしの白い花、くちなしの香りマインドマップに書きこんだコトバたちです。
もちろん香水やフレグランスなどの合成・人工的につくられた香りではなく
精油の香りを使いましたが、水仙とおなじで、水蒸気蒸留法による採油はできない香りなので溶剤を使ったものしか手に入りませんでした。
なので山野に自生するくちなしの花から受ける印象とは、ちがうんだろうなぁと思いつつ。

くちなしは沈丁花、金木犀とならんで日本三大香木のひとつ。
なかでも日本の野生原種はくちなしだけです。


勝負ごとに口出し無用


将棋や囲碁の磐は脚の形がくちなしの実をモデルにデザインされているという通説があります。
対局中に口を出すな、人の勝負ごとに口出し無用、という戒めを表しているそうです。

将棋や囲碁のことは詳しくありませんが、四つ隅をくちなしが守っているなら日本らしい戦いぶりになるんじゃないかと勝手に思っています。

将棋のことは「三月のライオン(マンガ)」を読んだので少しわかります。
相手の駒をとって、その駒を殺さず自陣でまた生かす(指す)ことができるのはカッコいいルールだなぁと思います。

勝敗を「詰む」「詰める」と表現するのも勝ったり負けたりに終わりがなく、相手を負かすことが目的じゃないんだってことを表しているようで、研鑽しつづける棋士/騎士って感じが伝わります。

真剣勝負をくりかえしつつも同じ力量で戦える相手がいることを、逆に喜ばしいこととして、たがいに切磋琢磨する関係性を保つのは並大抵のことではないのでしょうけれども。

くちなしは、勝っても自慢せず、負けても言い訳しない、それが研鑽をつづける奥義だよ、ってことでその名がついたのかなと(勝手な解釈です)。

☆☆☆

お読みくださりありがとうございました。
こちらにもぜひ遊びにきてください。
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