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SNSカウンセリングは導入できるのか?
先日、カウンセラーではない人から、
「SNSカウンセリングとかチャットカウンセリングとか、流行っているよね? そういうの、できないの?」
と、言われ、私の第一声は、
「ええ~?できるかできないかはともかく、あんまりやりたくない…」
でした。
とはいえ、いじめ相談とか子育て相談とかでチャットによる相談が導入されたという記事をちょくちょく見かけるので、
「食わず嫌いもよくないな!」
と思い、色々調べて勉強することにしました。
それで自分のところで導入できるのかどうか、考えてみました。
ちなみに厚労省のページでも、SNS相談がしっかり用意されています。
◇定義
定義というものは確立していないのだろうが、SNSカウンセリングは
1.スマホ(もしくはPC)で行うテキストによるカウンセリング。
2.制限時間を設けるが、その時間内であれば、お互い何回テキストを送信してもいい。
このnoteの表記の仕方も色々統一されていないですが、「SNSカウンセリング」の表記を多用します。ぱっと聞き、共有できるイメージが近くなりそうなので。
◇メリット
まずはメリットとデメリットを考えてみることから始めてみた。
相談者目線のメリットは?
相談者のメリット
1簡単にアクセスできるため、相談への抵抗感が少ない
2匿名性が高いため本音を打ち明けやすい
3文字で残るため、後で読み返し考えることができる
4聴覚障害者も相談しやすい
1が最大のメリットでしょう。2の匿名性も相まって、相談の敷居が低い。
とにかく一人で悩まないで、相談してみる。
このアクションを促すだけでも意味があると思える。
しかし、例えばLINEというツールを使うとすれば「友達登録」が要るし、事前に自分の情報を打ち込んだり、相談員の応答が来るまでには数秒から数分のタイムラグがある。
今は情報のやり取りが非常に高速している時代である。
皆さんもネットがちょっと遅くなったりとか、ネット記事や動画を見る際に出てくる広告だったりで、興が削がれたりした経験はないだろうか?
相談開始までのプロセスが少なくなればアクセスもしやすくなるが、現状は「ちょっと面倒くさい」プロセスがある
「SNSなら手軽だし、ちょっと話してみたいな」という人が、こういう事前のちょっとした手続きがめんどうになって、途中で相談に至らず「離脱」することはありそうではある。
3「文字で残るため、後で読み返し考えることができる」は、自分の相談内容を文字起こしする過程自体にカウンセリング効果があったり、カウンセラーの回答を読み返すことで気づきや留意点などを思い出しやすいという側面がある。
従来のメール相談でも同様のことが言えるので、SNSカウンセリングだけのメリットとは言えないけど、いいやり取りができれば意味があるのではないかと思う。
4「聴覚障碍者も相談しやすい」が、一番メリットとして言えると思う。
ただ当然、カウンセラーが聴覚障碍者のハンディキャップを十分理解している必要はある。
カウンセラーから見たメリットは?
Co側のメリット
1チームで相談に対応でき、相談中に各種資料が利用できる
2情報の共有が可能になる
3在宅勤務での雇用創生
Co側のメリットを以上のように書籍では説明していた。
周囲のCoやスーパーバイザーと相談しながら返答を考えることができるのは心強いのではないだろうか。
また、相談の質を均質化することができるのは相談者にとってもいいことだろう。
在宅勤務は地方等に住んでいたり、子育て・介護のカウンセラーが働けたりといったメリットは大きい(質の高いカウンセラーが働ける)と思うが、先の1.チームで対応や、2.情報の共有といったメリットはなくなってしまう。
(個人的には在宅勤務でSNSカウンセリングって、在宅電話カウンセリングや在宅オンラインカウンセリングと違って環境整備を気にかける部分が少ないのでやってみたいなとは思うけれども。
孤独感はあるよねきっと…。)
◇デメリット
メリットは分かった。それじゃあ、デメリットは?
SNSカウンセリングのデメリット
1動機づけの低い相談の増加や作り話・冷やかしがある
2相談者の情報が限られており、多様な角度からのアドバイスが難しい
3言語能力・表現力が低いと相談が成立しにくい
ふむふむ。なるほど。
匿名性がアダとなるし、真偽もあいまいになる。
文章力、読解力(お互いの)が低いと、結局何が言いたいのか混乱するだけとなってしまう。
そしてそして。極めつけはこれ。
時間がかかる。
9-17歳の子どもたちに対する電話相談とチャット相談を比較した研究(2009)によれば、一回の相談に要した時間の平均は、電話相談では9.3分だったのに対して、チャット相談では24分だった。ところが、やり取りされた単語数は、電話相談では約1,600語であったのに対し、チャット相談では723語だった。
つまり、言語情報だけを比べても、チャット相談の情報量は電話相談の半分以下だった。
このデータは、一人の相談員が、電話相談であれば一時間につき6人の相談を受けられるが、チャット相談では一時間につき2人の相談しか受けられないということになる。
(そもそもな話、言語能力が成人よりも低い子どもに対し、9分ちょっとの相談時間で何ができるのだろうかという疑問はあるが)
そうすると、3倍の人件費コストがかかっているのがSNSカウンセリングということになる。
◇SNSカウンセリングをやるとしたら決めること
0、目的
1、SNSカウンセラーの配置人数
要件、条件、資格や経歴・キャリア
2、一回の相談時間
3、使用するSNSの種類(LINE、Twitter、WEBチャット等)
4、相談対象者の範囲
5、回数制限の有無
6、相談実施場所
他にも、SNSカウンセラーの相談環境、匿名性にするかどうか、あきらかに相談ではないアクセスに対する対応方針(冷やかし、エロ電、怒り誹謗中傷)など、決めることは膨大だ。
個人的に一番難しいと思うのは、3のどのプラットフォームを使うか、だ。
導入したら後戻りはできないし、SNS自体、流行り廃りがある。
そしてチャットのようなことはどのSNSでも大体できる。
0の目的や4の相談対象者をよくよく考えて絞り込んでいくしかないだろう。
たぶんだけど、めっちゃお金がかかる。
イチからやったら数百万円単位で予算組まないと無理。
◇将来の展望
書籍を読み進めていくと、気になる箇所があった。
将来の展望
AIの進化により、基本的な情報提供によって解決する悩みはAIが答えられるようになる。
これは気にならないわけはない。
AIの進化でもカウンセラーの仕事は脅かされない(少なくとも自分が現役のうちは)と思っていたが、こと文字のみで行う相談業務においては、AIで事足りるわけだ。
でもこれは既に色々な企業が導入している。
AIと呼べるようなものではなく、Q&Aに誘導したり、サポートデスクの電話番号を伝えたりといったプログラムが多いが、将来的にはやれてしまうんだろう。
ってことは、だ。
SNSカウンセリングを導入したとして、その経験を積んでいってSNSカウンセリングが上達したとして、数年から十数年のうちにAIに取って代わられる可能性が高い領域と言える。
AIが実用に足る、となったら、その時働いているカウンセラーはどうなるのだろうか。
事業の寿命として、結構短命なのでは?
◇で、SNSカウンセリングやってみた
この記事を寝かせている間に、ありがたいことにSNSカウンセリングをやる機会を得た。(年単位で寝かせていますw)
相談者とタイムリーに受け答えされるチャット、相談者の悩みがどこにあるのかを模索し、言葉選び・言葉遣いに四苦八苦し、感情をどのように拾うか頭を悩ませ、じゃあ解決策ってあるのかっていうのを話し合って。
何とか、終えられた…
相談中はめっちゃ過集中だったと思う。
メール相談との違いは、「間」の難しさにあると感じた。
どういうタイミングで返信が返ってくるのか、すごく思い悩む。
例えば返事がなかなか返ってこなかった時、その人の文字を打つスピードがそもそもそれくらいなのか、家事とか仕事をやりながら打っているのか、電話がかかってきちゃったとか、うまく表現できなくて時間がかかっているのか。
基本は待つけど、どういう「間」であるのか、待っている間も色々と考えてしまう。
やってみて、「頭が整理されました」とか、「すっきりしました」とか、「ありがとう」と言ってくれる相談もあったけど、本当のところは分からない、と感じてしまう。手ごたえがないのだ。
感情は聴覚で7割受け取っているという話を聴いたことがあるけど、まさにその通りだなと思った。
だから、相談者にとっては意味があったとしても、カウンセラーのモチベーションになりづらいように思う。
そこって結構大事だと思うんだけど、どうなんだろう。
例えばSNSカウンセリング後にアンケートを取るっていうのはいいのかもしれない。諸刃の剣かもしれないけど。
このカウンセリング形式が本当にいいものかどうか、わかるわけだし。
なので、気になるのは治療効果というか、SNSカウンセリングって本当に効果があるの?
あるとしたら、他の(対面やWEB、電話、メール)カウンセリングとどれくらい違うの?
っていうのは一番気になっている。
やってみた感想としては、「繋がっている」感覚は得られるかもしれない。
けど、それ以上何かもたらせるのかというと、難しいと思っている。
◇まとめ
・相談者が相談し易い
・後で見返せる
・聴覚障碍者も相談できる
・時間は3倍かかる
・導入にお金がかかる
・AIの成長により脅かされる雇用
個人的な所感は上に書いた通り。
SNSだと、相談件数は稼げると思うから、何となく「やってる」感はでると思うんだけど、解決に向かって行ってるのかな?
流行りがそっち方向になっているのを感じると、モヤモヤした気持ちになる。
相談者側のコストが高くなっちゃうけど、まだメタバースとか、アバター相談とかの方が意味があると思うんだよな。
今回はそんなところです。
長文、読んでいただきありがとうございます。
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参考文献
『SNSカウンセリング・ハンドブック』杉原保史著 誠信書房 2019
『SNSカウンセリングの実務 導入から支援・運用まで』浮世 満理子著 日本能率協会マネジメントセンター 2021