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No.152 最近観た映画雑感(令和5年秋)

の9月末からの最新版. いくつかは個別に書く予定だったが, 完全に時期を逸したのでまとめてサッと書く. 

1. SAND LAND

 「これでいいのだ」を体現した作品. 流石に「ラピュタ」には及ばぬまでも, 少なくともそれ以後の``はやお''のどの映画よりも出来がいい. 思うに最近のアニメは, 正にこの「これでいいのだ」がわかっていない作品が多すぎる. たとえば「ゴミなろう」については, ある意味でこれの対極の「そうはならんやろ」をされるからオロロロロロしてしまうわけである. また, 自身の作品が貧しいことを取り繕うためだけに余計なものを無駄に積み込みたがる``さかしい''作品も多い. そんな中で(その反動もあって?)こんな作品が現れてきたということも興味深い.

2. 首

  単調でリアリティのない作品. 私は北野映画自体が全般的に嫌いなので, そもそも余りフェアではないのだが, それでもこう言わざるを得ない. 単調というのは,刺激的だったり, マジメなギャグ描写とかで面白い場面はそれなりにあるんだけど正直そればっかりで, 半分を過ぎるころにはもうパターンも学習して完全に慣れてしまう. そのウリと思われるコントについては, 確かに局所的に面白い場面もあった(光秀の供応役のエピソードや, 六平直政の安国寺恵瓊, 清水宗治の切腹シーン etc.). ただし, 全般的になんというか「ただこのコントをやりたいだけだろ」みたいな場面がいくつかあって, それを単純にツギハギして並べただけという印象(早い話がただの「戦国アウトレイジ」)で, 少なくとも2時間枠は絶対に必要ない. 

 「リアリティの無さ」に関してはこういうことである. 私にとって「作品のリアリティ」というのは, 史実や現実がどうこうとかそういう話ではなく,「その物語, あるいは世界における誠意の積み重ね」である. どんなにブッ飛んだ信長(ちなみに当然「首」の信長描写はかなり古いコテコテのパワハラ上司のイメージを更に過激にしたもので, 最近の研究に基づく保守的でかなり細かく気遣いができる信長像とはかけ離れている)だろうが, 秀吉だろうが, 光秀だろうが構わないが, それでちゃんと物語の dynamics を考えなければならない. 一例をあげると, 「首」においても秀吉は「知恵者」という設定になっているが(信長はじめ登場人物が口々にそう言っている), 作中では銭を撒くのがうまいだけで, あとは何かあれば

「官兵衛!! お前, 何でもいいからはやくなんとかしろ!! コノヤロー!!」

しか言わない``ただのたけし''で, カケラも知恵者ではない(ちなみに言っておくと, 作中では最初から黒田官兵衛が居るところから始まる. その前はどうしてたんや? 半兵衛で似たようなことをやっていたのか?). だったら最初から知恵者設定も無くしてしまえばよかったのに, そこら辺が北野武の甘いところである. 

 それで言えば, たとえば似たようなブッ飛んだ設定で行くと「へうげもの」や「ドリフターズ」の方が遥かにリアリティがあり, 遥かに面白く, 興味深い(作品としても, エンターテインメントとしても, 思想としても, その遥か上を行っている). そして我々はそんなものをもう知っているのだ. 構想30年かどうかは知らないが, 少なくとも作るのが15年は遅かったのは間違いない(それ以前の問題だが). 

3. ゲゲゲの謎

 珍しくぱうらチャンネルでレビューされていて気になって, PVを観たら, 一発で音楽が川井憲次とわかったので観にいった作品. 結果は大当たり. 多分, 多くの人がレビューしているから, 「犬神家」との類似性やら何やらについては, 私がここで何かを繰り返し言う必要はないと思う. なのでここでは, 恐らく彼らが言っていない点に触れるよう.

 まず川井憲次の音楽が, 「ジョーカー・ゲーム」と「ひぐらし」を足して2で割った感じでやはり良かった. 川井憲次に昭和の曲を作らせると, なんかえも言えぬ哀愁感が出てそれがこれらの作品に非常にマッチする. 

 次いで「水木(しげる)が随分かっこよく描かれる時代になったな」と(昔ならADHDの怠惰な落伍者というイメージ). それこそ正に「ジョーカー・ゲーム」のような活躍具合だったではないか. それと関係することで言うと, バディものとしてみると, 「ゲゲゲの謎」に一番近いのは色んな意味で「うしおととら」のように感じた

4. 駒田蒸留所へようこそ

 上映終了間際になんとか滑り込んで観てきた(おかげで1日で首, ゲゲゲ, 駒田蒸留所の3本を梯子することになった). やはり, P.A.WORKS のお仕事シリーズは劇場版くらいが(ちょっと強引な展開にはなるが)ちょうどいい気がする. つまり2クールでやると, やはり途中でダレる(「SHIROBAKO」は1クールと2クールで少し方向性を変えることでこの問題が少しマシになっていたが). しかし, P.A.WORKS というと「True Tears」(そういえば先日菊地創が亡くなってしまった)が浮かぶ私としては, 酒がテーマというのはちょっと原点回帰な感じもして懐かしかった. 

 ちなみにこの作品の驚きは, DMMの作品だったこと!! つまり DMM がP.A.WORKSにアニメを作らせる時代になったということ(「艦これ」の映画もKADOKAWAだったのに)!! これはもしかしたら時代の新たな潮流かもしれない. 

5. のんのんびより ばけーしょん (5年ぶり再上映)

 人生でもう一度劇場で観たい映画ベスト3に入る傑作. 「のんのんびより」アニメ10周年記念ということで, 再上映されていたので遠征して観にいく. これについてはもはや語りつくした. ともかく言えることは「いつ観ても何度観ても最高である」ということである. もう少しマジメに言えば, (私が大好きな)「平凡なる非凡」の極致の作品であり, 「豊かな時間」を与えてくれる非常に稀有な名作である. たとえば

「2時間の映画を観て, 面白すぎて30分に感じる」

というタイプの作品は数あれど

「わずか70分の映画が, (子供たちの, あるいは我々の子供の頃にやったかもしれない)夏休みの大旅行を疑似体験できるような, 2時間以上に感じるの密度の濃い作品」

というタイプの作品は珍しい. これこそ正に「豊かな時間」そのものに他ならず, これこそが今の我々には何よりも必要なものなのである. そして同時にこれは「豊かな時間」と「平凡なる非凡」の結びつきを示唆してくれたという点においても, 私にとって得難い作品である. 

6. 青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない

 全く期待しないで(瀬戸麻沙美が出る舞台挨拶回だって言うから)偶然観にいって思いがけない当たりだった(まるで山田洋次が今「学校」を作ればこういう感じにするのかと思わせるような)前回の「おでかけシスター」と違い, こちらは正直イマイチだった. まぁ, 妹の件が片付いたわけだから, 咲太君の家庭関係の問題の最後の砦としてコレを扱わないわけにはいかないから, 必然的にこうなるのはわからなくはないが, ちょっとラストは賛否が分かれると言うか, もっと言えば炎上しそうなセンシティブな印象を受けた(あれは完全に親サイドが解決すべき問題なのに, あそこまで親が何もしなくていいのか). で, よく知らんけど, 大学生編は結構だけど, あれ以上は完全に蛇足だろ(まぁ, もう好きにしてくれ). 

 ただ, 例によってカメラというか, 撮り方は面白いアニメだった. 小津調ってわけでもないんだろうけど, アレは何なんだろうな. 変わってはいるけど, 某シャフトのようにうるさくないのが, 非常に良い. あと「不可思議のカルテ」のアレンジは今回のが一番良かったと思う. 

7. ナポレオン

 壮大なる``駄作''. そもそもタイトルが間違えてる. 「妻子捨太郎(志熊理央)物語」ならぬ「ジョゼフィーヌ大好きおじさん物語」に改名しろ!! マジメにいうと, まずナポレオン(どころかフランス人だろうが, オーストリア人だろうが, イタリア人だろうが, ロシア人だろうがみんな)が流暢な英語で話す時点で大分草. まぁ, そこは面倒を省くための作品の設定だとしよう. そうだとするとおかしいのが, 作中で一ヶ所(確かマリー・ルイーズの縁談話をオーストリア大使がしている場面じゃなかったかな?)何故か急にドイツ語(英語字幕)!!の場面が出てくること. 「みんなが英語をしゃべるナーロッパ世界設定」にしたのなら, なんであそこだけ英語にしなかったのか全く意味不明である(いや, 普通にドイツ語しゃべるんかい!!). 「こんなんなら吹替を観れば良かった」と後悔. 

 で「ジョゼフィーヌ大好きおじさん物語」である. これは本当に文字通りこの通りで, 要するにナポレオンの話の中からジョゼフィーヌに関する(あるいは適当にこじつけられる)部分だけを適当に抜き出して, 話にしましたという感じ(それ以外の過程, 場面は大体 skip). だからこれはナポレオンの話ではない. それにも関わらず, そのただのジョゼフィーヌ大好きおじさんが, なんか良くわからないけどなろう小説ばりに成り上がって, 何故か王政を倒した革命の後に皇帝になってしまうというゴミなろうチックな話である. むしろ, ただのジョゼフィーヌ大好きおじさんの人生を, ここまで壮大に描けることの方が驚きである. それゆえにこの映画は壮大なる``駄作''なのである. 

 しかしご存じの通り, 私はオッカムの剃刀論者なので, 庵野君や新海君のように無内容を取り繕うための演出(そこにリソースを割くこと)というものを蛇蝎の如く嫌うので, 当然この作品の評価は低くなる. だって, ジョゼフィーヌ大好きおじさん物語を描くのに, ワーテルローの戦いをあんなにマジメにやる意味がないから. フランスへの愛国心さえも, そこへ至る過程が色々と skip されてしまっているから, ジョゼフィーヌ大好きおじさんの建前に聞こえてしまう. ならいっそ完全にジョゼフィーヌ大好きおじさん物語に振り切ってしまえば良かったと思うのだが, そういう振り切りは出来ていない. 恐らく局所的に凄く頑張って撮ってしまったので, そこまでする勇気は無かったのだろう. そういう意味では同様にリアリティが無かった(たけしがやりたかっただけのコントを戦国アウトレイジでやる, ただそれだけの)「首」の方がまだ潔かったと言える. 

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