邦題で損してるホラー映画No.1かも!ちゃんと面白いのでご安心ください「そのネズミ、凶暴につき」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(663日目)
「そのネズミ、凶暴につき」(2013)
ジョーダン•バーカー監督
◆あらすじ
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休暇で郊外の別荘を久々に訪れたコーリーたち。再婚相手のサラと一人息子のリアムの仲はギクシャクしたままで中々溝が埋まらない。そんな折、別荘内にあきらかに何者かが侵入した形跡があり、警察には通報したものの、サラは気が休まらない。さらにはその晩、何者かが侵入しリアムが誘拐されてしまう。コーリーとサラは必死に捜索を続けるもネズミやウサギの覆面を被った不審者に囚われてしまう。
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『休暇で別荘を訪れた一家を襲う覆面殺人鬼たち。奴等の真の目的とは…』
という、かなり王道な展開のカナダ発のスラッシャー映画です。内容自体は悪くいえばありきたりなんですけども、グロ描写や血飛沫の飛び散り方、カメラワークやカット割り、シナリオの構成力などが非常に秀逸でかなり楽しめました。
私は今作を池袋のTSUTAYAにて発見し、この「そのネズミ、凶暴につき」というタイトルだけを見て、これは見るまでもなく駄作と分かる私好みのクソ映画だなとほくそ笑みながら裏面の内容も確認せずにレンタルさせていただきました。
いざ蓋を開けて見ると先述したようなハイレベルな仕上がりになっており、ある意味私の期待は裏切られてしまったわけですが、これはこれで見つけることが出来て本当に良かったなと思える良作B級ホラーでした。
そもそもの原題「TORMENT」とは“強い苦しみの感情”や“精神的または肉体的苦痛”という意味であり、たしかにそのまま「トーメント」や「苦しみの感情」という邦題にしてしまうのは味気ないですが、だからといって「そのネズミ、凶暴につき」は悪ノリが過ぎますね。
一応、殺人鬼がネズミのぬいぐるみの頭部分を被って顔を隠しているのでまったくの見当違いではないですし、私自身そういったフザケた邦題自体は嫌いじゃないです。ですが、普通に映画を楽しみたい人は確実に手に取らないタイトルでしょうし、内容がかなり真面目なので少々可哀想というか、めちゃくちゃ損してると思います。
タイトルの元ネタについては皆様お分かりの通り、世界の北野武監督作「その男、凶暴につき」(’89)です。あと、余談ですが2003年には「汁男優がセクシー男優を目指す」という内容のフェイクドキュメンタリー映画「その男狂棒に突き」という作品も存在します。
こちらも大変興味深いですね。
今作の監督を務めたジョーダン•バーカー氏は発表作自体は少ないものの、通好みなテイストのホラー映画を現在までに3本手掛けております。
同監督の一番新しい作品「ウィッチゲーム」(’19)はアマゾンプライムやU-NEXTでも視聴可能なようなので近々見てみようと思います。
限られた予算の中でやりくりをするのが得意な監督のようで、今作では緊張感を高めるためにあえて最小限の照明だけを用いて暗闇のシーンを増やすなど工夫を凝らしていたそうです。それもあってか少々見辛くてストレスを感じるシーンも無くはないですが、そこまで気にならなかったです。
今作に関しては現在配信などはないようです。もし気になる方がいらっしゃいましたら池袋のTSUTAYAなどお近くのレンタルショップをご利用ください。
◇森の中の別荘で食事をしている一家。外の物音が気になり母親が見に行くと何もない。気のせいかと思い振り返るとそこには大鋏を持った男が立っていた。叫び声を上げる間もなく惨殺された母親。そして屋内に侵入してきた男に撲殺される父親。自室でヘッドホンをして音楽を聞いていた一人娘は気づかぬまま、背後に男が迫る…
という導入から引き込まれました。これ以上ないくらいにめちゃくちゃベタなんですけど、先述したように一つ一つのカット割りや、父親がバットで撲殺された際の血の飛び散り方だったりにこだわりが感じられました。この最初の数分で「この作品ちゃんとしてるぞ」というのが分かります。
以降はあらすじ通り、コーリーと一人息子のリアム、そして再婚相手のサラの三人で郊外の別荘を訪れ、なんとかサラとリアムの仲を深めようとするも、リアムはサラのことを新しい母親として受け入れることができず、サラはそんなリアムとこれから上手くやっていけるのか不安で落ち込むばかり。
そんな中、別荘内には残飯やら使用した形跡のある食器やベッド等など、あきらかに何者かがいた形跡があった。すぐ警察に通報するも「若者が空き家を狙って入り込んだだけさ」と老警官のホーキンスに軽くあしらわれるだけ。その夜、鎮静剤で熟睡させたリアムをよそに、サラとコーリーは夫婦の時間を楽しむも夜更けに何者かが侵入し、リアムを誘拐してしまう。
という風に展開していきます。
『自分たちの夜の営みのためにリアムに鎮静剤を仕込んで熟睡させる』という行為をさらっとやってのけるコーリーとサラにはかなり引きますが、そこは全然重要な部分ではなく、『リアムの大切にしていた4つのぬいぐるみ(ネズミ、ウサギ、ブタ、サル)の頭部分を切り取り、それを覆面のように被った謎の集団がリアムを誘拐し、コーリーたちが助けに向かう』というのが今作の本筋です。
コーリーもサラもネズミたちに襲われ、それぞれ拘束されたり、理由もわからず拷問されたりと散々な目に遭います。この拷問シーンも車のバッテリーと電極を繋いで電気を流すなど中々にぶっ飛んでいます。
なんとかリアムを助け出すもコーリーはウサギに射殺されてしまう。しかしサラは最後の最後までリアムを自分の息子として守り続け、そんなサラを見てリアムもサラのことを母親と認識していく。どうにかウサギを撃退し、二人は警察に保護され、事件は一件落着。かと思いきや、サルを護送中のパトカーをネズミが襲撃。警官を殺害して「やっぱり来てくれた」、「家族の絆は永遠だ」という意味深な会話をしつつ、サルとともに逃走。
という形で物語は幕を閉じます。
テンポも良いですし、散々言ってますがこだわりを感じるカメラワークだったり一つ一つのカット、音響や照明のおかげでとても良くまとまっています。
ですが、最後の最後までいまいちネズミたちの思惑というか目的が分からず、あまりスッキリはしませんでした。
拘束したコーリーに対して「お前の子じゃなきゃ攫われなかった。攫われなければお前は捜さなかった。捜さなければこんな目に遭わなかった」というネズミの意味深な発言。
さらには目隠しをしたリアムを連れてきて「愛してないと言え」とコーリーに耳打ちをし、コーリーもリアムを守るため仕方なく指示に従い「お前なんかいらない。もう愛してない」と言い、親子の絆を絶とうとするなど『ターゲットにした家族の仲を裂いて、子供を自分たちの家族に迎え入れる』というのがどうやらネズミの目的なようです。
実際、コーリーが本心ではないとはいえ、リアムを突き放すようことを言った際は「これであの子は我々家族の一員だ」と発言するなど、おそらくは家族に対してコンプレックスがあるのか、力付くで引き離そうとします。
ネズミの覆面の下ははっきりとは見えないものの、火傷なのかケロイドのようなものが顔中に見受けられます。もしかしたらですけどその容姿が原因で、『家族を持つことが出来なかった』あるいは『家族が自分のもとを去った』というバックボーンあるのではと推察できます。
そして子分のようなウサギ、ブタ、サルですが、おそらくはコーリーたちのように被害に遭った家族の子供を拉致して洗脳し、自分の家族にしているのだと考えられます。事実、ブタのマスクを被っていたのは冒頭に登場し両親を惨殺された少女でした。
明かされない謎はありつつも、後味の悪い終わり方は非常に好みでした。邦題が邦題なだけに中々に損をしているようにも思いましたが、まとまりのある良作のB級スラッシャー映画に仕上がっていました。
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