<総括>2023年の食体験
2023年は本当によく食べた一年であったと同時に、人生を変えるような食の出会いがあった年でもありました。ちなみに昔からの推しは推しのまま今年も変わりませんでした。好きだよ(なんの告白)。
トップ画像は世界一のお寿司だと思う金沢の小松弥助さん、森田大将が握ってくださったお寿司です。今年、久しぶりに頂くことが出来て、それはそれは感動しました。
<イノベーティブ>
今年、食において最も大きな出会いは1月、Salon du Chocolatで出会ったSea Vegetableさんの(INUAにいらっしゃった)石坂秀威シェフ。海藻とチョコレートという絶対に合わなさそうな組み合わせを、これまた松ぼっくり等、私が今までの人生で食べたことのない食材と組み合わせて「美味しい」と思えるギリギリのラインで攻めてくる。世の中にこんな料理、こんな味があったのか!と文字通り衝撃を受けました。
そして4月、「noma kyoto」さん。「行ってみたい」を後押ししたのはその頃、出始めていたレビュー記事もありますが、間違いなく1月の石坂シェフのお料理でした。あの衝撃をまた受けてみたいという好奇心。そうでなければ約13万円は払えませんでした。石坂シェフ、ありがとう。清水の舞台から飛び降りて、自分のクレカで25万円を超える二人分の食事代を切り、会ったこともない同行者と京都で待ち合せるという狂気の沙汰。もう一回あの行動を出来るかと訊かれると正直とても出来る気はしないですが、それでも本当に行けて良かったし、血迷って良かった。間違いなく私の人生における最高の食体験の一つになると思います。同行者と暴挙を許してくれた夫に心から感謝です。そんな約13万円/人の記事はこちら。頑張って書いたよ。
nomaといえば、「noma」や「kadeau」でのご経験がある軽井沢の「Restaurant Naz」さんも今年は外せません。12月に冬のお料理を頂いて、2年掛かりで四季を制覇しましたが、どの季節もこちらでしか頂けない組み合わせばかりで感動。発酵、熟成という私の中でよく分からなかった発想を「美味しい」に結び付けてくださったお店。素材の別側面を見せてくれるお店でもあります。どんどん値上がりをしており、かつ2024年の予約は既に満席とのことで、そのうち手が届かなくなりそう。
日本で食べられる「noma」を探し始めると、コロナ中に閉店してしまった東京・神楽坂にあった「INUA」に辿り着きます。気になっていたのに値段が値段で当時、手が出せなかったお店。後悔の念が尽きません。それでも今、日本で食べられるものを探す中でINUAのスーシェフがおられるSOWERに出会います。noma kyotoの話を「kashiya」のサービスのお兄さんとしていた時に「SOWER、いいらしいよ」と聞いたのがキッカケなので、人の繋がりが食の繋がりにもなる好例。お兄さんありがとう。そんなわけで11月、湖北キュイジーヌを謳う滋賀・永原の「SOWER」さんへ。海外の人から見た日本料理や食材というのはやっぱり我々が見るものと少し違っていて、その違いが味や食材の組み合わせで表現される料理というのは直感的で分かりやすく面白い。感動を綴った記事はそのうちアップします。そういう意味ではランチがなくなってなかなか行きづらくなってしまったけれど、京都の「リョウリヤ・ステファンパンテル」さんも好き。海外の感性で日本を見られた結果がお皿に出ていて間違いなく美味しく、かつ面白いお皿が多いです。
nomaと双璧をなすイノベーティブといえば今はなきスペインのエル・ブジだと思いますが、そちらでの修行経験がある「SHÓKUDŌ YArn」さんは今年もやっぱり外せない。面白いメニュー名に北陸の食材を中心に今までにない組み合わせをされてきます、でもどストレートに美味しい。大好きなお店です。
さて、湖北キュイジーヌ、北陸の食材の話が出たので、次は<ローカルガストロノミー>の話を。
<ローカルガストロノミー>
多くはその地方の食材を使った料理を提供することを指しますが、突き詰めると自家栽培・自社牧場となってきます。
今年、その究極の形を見た気がするのが札幌の「AGRISCAPE」。究極、素材は取れたてが一番美味しい。それをとことん突き詰め、突出した食材の旨味を引き出すやさしい調理をする。一方で自然だからこそどうしても出るバラつきは予備を準備することで対応して、料理としての質は絶対に落とさない。その心意気が本当に格好良くて、でもそれを客には押し付けない姿勢が素敵すぎて。一度訪問しただけですが、ファンになりました。まさに一期一会のお料理で、きっと翌日には違うお料理が出ていると思います。
自家栽培、自社牧場から徐々に広げていきましょう。市単位でそれを極めておられるのが新潟の「新多久」さん。お酒も村上のもののみという徹底ぶりで「これが村上の本領発揮じゃ!」と美味しさでさっと魅せ付けてくる美味しさ。「Remède nikaho」さんでも出会ったヌタウナギに新潟でまた出会うとは。また行きたい。
市からさらに広げて。能登という石川県の中でも更に北にある地区の食材を中心にした「Villa della Pace」さん。その時取れたものを無駄なく美味しく使われるお店です。こちらもその日にしか頂けない一期一会のお料理だと感じます。和倉温泉からタクシーでとはいえ、アクセスはなかなか。それでも行く価値があるお店だと思います。次は宿泊でお邪魔したい。
更に広げて都道府県に。そうなると絶対に外せないのがコロナ禍からの推しレストラン、秋田県にかほ市の「Remède nikaho」さん。こんなに素材の味が濃く、最後までさらっと頂けちゃうフレンチが存在するんだ!と感動し、秋田に行く度に外せないお店。毎回、秋田の素材に感動し、やさしいお味付けに感動し、ワインにも感動し。来年も引き続き推します。
もう一つ、秋田県大仙市(大曲)にある「ristorante giueme」さん。「Remède nikaho」さんと同じく食材の旨味、特に野菜の旨味をぎゅっと前に押し出した身体が喜ぶお料理です。大曲での花火大会の前には必訪のお店です。
和歌山県和歌山市の「hôtel de yoshino」さんも印象的でした。料理長が手島シェフから松本シェフに代わり、どうなるかと思いきや、クラシカルなフレンチながら和歌山の素材を生かしたお皿で素晴らしかったです。また行きたいなぁ。
そしてローカルガストロノミーとしては絶対に外せない愛媛県松山市の「くるますし」さん。ほぼ愛媛で仕入れたお魚をそれぞれどうすれば美味しくなるのか、徹底的な管理の元で大事に手当てされたお魚たち(白身がメイン)は様々な旨味や甘みをお寿司という形で私たちに届けてくれます。全部違って全部美味しい。白身ってお魚によってこんなに味が違うんだ!ということを恥ずかしながらこの年になって痛感したお店でした。似た系統だと新潟県新発田市の「登喜和」さんもオススメです。
同じく愛媛の「道後海舟」さんも外せません。大将とお弟子さんの丁寧なお仕事振りを拝見しながら、愛媛で取れたての食材を頂きます。日本料理ですが、どのお皿もやさしいお味付けでどこかホッとするお味。道後温泉から徒歩圏内というのがまたいい。
また今年出会って感動したのが天城軍鶏を使ったむっちり焼鳥の静岡県浜松市の「幸羽」さん。焼鳥は蕎麦と同じく自分の中で「美味しい」基準がないものの一つなのですが、ジューシーでむちむちでそれでいて柔らかいという相反する食感を楽しめる焼鳥さんで感動。メニューはほぼ通年、あまり大きくは変わらないかも。冷めると硬くなるので是非お店でどうぞ。
最後に白金台の「ラクレリエール」さん。食材は取れたてが最も美味しいということを認めつつ、どうしても東京に届く間に落ちてしまう部分を料理人の手で補うというどえらいことをされています。どのお皿も綿密な計算の元、最も食材の旨味が立つ切り方、調理方法をされているように感じます。東京にいながらも味わいとしてはローカルガストロノミーの真髄を頂けるお店なので、敢えてここに入れたい。ちなみにソムリエの千葉さんが選ぶワインもセンスが良くてオススメです。
そんな「ラクレリエール」さんで定期的に実施されているパティシエールの野田さんのデザートコースがこれまた最高…ということで次はデザートのお話を。
<デザート>
①アシェットデセール(皿盛りデザート)
私の不動の推しは京都の「kashiya」さん。もう通って7年くらいかな。和菓子の要素を取り入れたアシェットデセールは他では味わえない唯一無二。年が巡って同じフルーツの季節になっても同じお皿は二度と作られないので、帰省の度に何が何でも時間を見つけてお邪魔しているお店。気さくなサービスのお兄さんとの情報交換も欠かせない。
お店ではなく個人の推しですが、催事にしか登場しない「Pâtisserie L'aube 花鏡庵」の平瀬 祥子さん。普段は「Restaurant L'aube」のパティシエさんをされています。催事としては信じられない構成要素の多さと繊細で丁寧に作られたお皿は食べるのが勿体なく感じるほど美しい。ただ見た目はもちろんなのですが、秀逸なのは一口毎に変わる味や食感を楽しめるストーリー性のあるデザート。出会ったのは昨年ですが、催事で出るならばどうにか調整を付けて絶対に食べに行きたいアシェットデセールです。
最後に催事といえば、こんなの持ってきちゃいけないと毎回思う推しレストラン「le Sputnik」さんも書かなければ。催事途中でデザートの種類が増えたり、薄い飴細工を持ってきたり、バランスが取りづら過ぎる縦に長いデザートを作ったり、パイやオムレツをお客さんが来るたびに焼いたり、もう何してるのよ大好き。
②デザートコース
今年は帰省のタイミングと開店日が合わず、1度しか行けませんでしたが、京都の「未完」さんはほぼ全てきちんとデザートなのに最後までぺろりと食べられてしまう大好きなお店。原価率が高すぎる気がするので、もうちょっと値段上げてください…
初めてお伺いできた東京・北参道の「おかしやうっちー」さん。甘いものが苦手なシェフが作るデザートは全部デザートなのに優しく、美味しく、最後までぺろり。繊細なバランスで作られているので、お持ち帰りではなくイートイン、ここだけでしか頂けないデザートコース。至福の時間でした。
今年、面白かった出会いは東京・中目黒の「Cocon」さん。食事とデザートを組み合わせた構成ですが、食べていて食事とデザートの境目が分からなくなるような攻めたお皿が多いため、人は選びますが私は大好き。食材を「こう組み合わせるか…!」のセンスが素晴らしいので、来年は絶対にご飯を頂きに行かねばと思っています。
食事とデザートを組み合わせたコースのお店といえば、今年閉店された京都の「Riche huit」さん、大好きでした。京都のフレンチ「MOTOI」ご出身のシェフとパティシエールさんが開かれたお店ですが、デザートコース合間のご飯も美味しく、デザートも当然美味しく、そして最後のJardin de richeの焼き菓子がめちゃくちゃ美味しい。近いうちにまたどこかで頂ける機会がありますように。
③クレープ
もはや永遠の推しになりつつある「Equally」さん。浮気して他のお店で食べたこともありますが、生地も中身も私はこちらより美味しいクレープを知りません。来年は豪徳寺で独立されるので、今から本当に楽しみ。
④パフェ
今年もやはり変わらず「srecette」さん。浮気して他のお店で食べたこともありますが、頂く度に味から想起される風景が頭に自然に思い浮かぶのはこちらのお店だけです。一口毎に頭の中の景色が移り変わる、本当に美味しくて切なくなるパフェを作られます。
⑤グラスデザート
not パフェ。パフェは縦に食べるものですが、ここは薄く横に頂くもの、という定義、なのかな。ここに書きたい出会いは「L'atelier à ma façon」さん。
いわゆるインスタ映えするめちゃくちゃに美しいデザートばかりなのですが、美しいだけでなく、とても美味しい。左右対称に作られているものが多いので、食べ進める度に味に大きな変化があるわけではないのですが、最後まで美味しく食べられる分量・バランスにされているように感じます。果物も美味しくたっぷり使われており、程良い甘さで好き。
<食べ過ぎるお店>
さて、色々書きましたが、年齢的に食べ放題はもう心惹かれない。それでも心惹かれる高級?食べ放題系のお店を2つ、ご紹介させてください。
昨年、五反田の「立ち呑みとだか」で阿呆ほど食べましたが、今年も懲りずにグルメな友人にお声掛け頂いた「虎ノ門とだか」で死ぬほど食べました。お腹いっぱいになり過ぎて、胃に血流行き過ぎて、食べ終わった後に眩暈がするくらい。それでも本当にどのお皿も「間違いなく美味しい」ので食べ過ぎる。来年もご縁を頂き、行けるのが嬉しい。「食べ過ぎないように!」と思っても絶対に食べ過ぎてしまう魅惑のお店。
こちらも食べ過ぎる「Sincere+」。北参道にある「Sincere」さんが土曜日限定で実施されている着席ビュッフェ。取りに行く方式ではなく、まずは一通りの種類が一皿ずつやってきて、自由にお変わりが出来るスタイルです。その一皿一皿がレストランの前菜並みのクオリティ(レストランだからそりゃそうか)で素敵すぎるお店。ノンアルコールのジュースが豊富でそれも飲み過ぎます。ちなみにこちらの石井シェフはバカールにいらっしゃった時からの推しです(当時のバカール、予約困難過ぎて1回しか行けなかったけど)。「Sincere」にいらっしゃったパティシエ、大山さんの東京・茅場町にある「ease」さんの季節のショートケーキも個人的に好きです。
<今年、最高に感動したお店>
東京では「ラクレリエール」さんですが、地方では福岡の「奈良屋町 青」さん。王道っぽい組み合わせを王道ではない形で出してくださる印象。どのお皿も間違いなく最高に美味しい。普通の「美味しい」が100点ならここは全皿250点出してくる、そんなお店です。見た目も美しく、お皿やお猪口にもこだわりがあり、それでいて大将が気さくでイケメンで、サービスやキッチンもぴりっとした緊張感の中にも仕事を楽しんでらっしゃる雰囲気が伝わってきます。来年、予約をねじ込んで頂いたので、本当に楽しみ。でも次はいつ取れるのだろうか…(ガクブル)
<次点、感動したお店>
福岡のフレンチ、「Seigo610」さん。「奈良屋町 青」さんに教えて頂いて伺ったお店ですが、福岡の食材を中心にこの素材をこうやって頂くの?という組み合わせで魅せてくださるお店。ランチで伺ってあまりに素晴らしかったので、次はディナーで伺おうと心に決めました。
それから自由が丘の日本料理、「鴨蕎麦 尖」さん。遊び心のある店主が蕎麦粉をあれやこれやのお料理で出してくださいます。最後の鴨蕎麦がまた絶品。美味しいお蕎麦ってなんだろう?と思っていたのですが、ここのお蕎麦は本当に美味しかった。
お蕎麦といえば金沢の「蕎味 櫂」さんが私の日本料理の好みどストレートで感動。お盆やお皿も素敵で、お仕事の丁寧さがよく分かる滑らかなそばがきや、加賀野菜をふんだんに使われたお皿の数々。挽きぐるみなのに香りが高い越前在来種のお蕎麦がこれまた美味しくて。金沢行かれる方は全力でオススメです。
次は中華、東京・広尾の「蓮」さん。フレンチ出身のシェフが中華に転身。丁寧に火入れされた青菜?が美味しくて感動しました。ムロツヨシ似のソムリエさんによるノンアルコールのお茶を中心にしたペアリングも素晴らしいです。また行きたい。
最後はイタリアン、東京・日本橋の「Da GOTO」さん。丁寧なお仕事が分かる前菜はもちろん、火入れがパーフェクトなお魚、お肉、そして手打ちパスタが最高。夜はアルコールが飲める方との訪問必須なので、どなたかご一緒しましょう。
今年も沢山の「美味しい」に出会わせてくださった生産者の皆様、シェフの皆様、パティシエの皆様、サービスの皆様、全ての方に心より感謝申し上げます。
お金と引き換えに皆様の血の滲むような努力や時間を、なんなら人生に近しいものをぱくっと一口や数口で頂いてしまうとてもとても贅沢な体験、それがお食事、食体験だと思っています。来年も、私は私のお仕事を頑張って、また新しい「美味しい」出会いが出来るのを楽しみにしております。
2023年もありがとうございました。ごちそうさまでした。どうか良いお年をお迎えください。(そういえばダイエットはいつ始めるんだろう?)