読書感想文
小学校5年生の時のことだったと思う。
例年のように、夏休みに読書感想文の宿題が出された。
良い感想文を書くとクラスの先生から選ばれ、表彰されるみたいなことがあった。
その夏、僕の感想文が先生から選ばれ表彰されたのだ。書くからには本気を出したし、良い題材の本を選んだつもりではあったから、まあ嬉しかった。ただ、クラスにはI君というめちゃくちゃ文章を書くのが上手な友達がいて、選ばれたときはその彼ではないんだという驚きもあった。
それから数日経ったある日。たまたま先生と自分とI君の3人で話す機会があった。
その時の会話と空気感は今でも鮮明に覚えている。
「I君、今回読書感想文選ばなくてごめんね。」
と、まず先生が一言。ほんの少し間があってそれから、
「I君の感想文とっても良かったんだけどね、I君はいつも選ばれてるから今回は柴田君(僕)にしたんだ。だから、気にしないで。ごめんね。」
すると、I君がほんの少しの間も空けずに
「いやいや、柴田君の感想文はとても良かったです!だから全然気にしてないです!」
それに対して、僕は少し遅れてから、
「やっぱりそうだよなー、、I君の方がすごいに決まってますよね!」
と言った。言うしかなかった。
そのあと、先生が僕に対して、もちろん柴田君の文もとっても良かったよ、みたいなことを言ってくれた気がするがよく覚えていない。
先生に対して、僕の目の前でそれを言うのはどうなんだ、と子どもながらに強く思った。
そして、I君の大人すぎる対応。君はいくつなんだ。
おそらくI君は自分が選ばれると薄々感づいていたはずだった。それはI君が傲慢だからではなく、毎年必ず彼が選ばれていたという事実があるから。
それを踏まえてのあの対応は、I君が圧倒的に大人だった。
I君の感想文の題材は芥川龍之介の''杜子春''、一方僕は少年が家出するところから始まる小学校高学年向けの内容の本だったのだから仕方ない。
分かってはいるつもりだったが、やっぱりショックだった。自分も本当に選ばれたと思っていたから。
今思えば、人生そう甘くない、っていうある意味良い経験だったのかもしれない。無理矢理かもしれないが。
大人とは何か、少し分かったような気がした小5の夏だった。