気功法と太極拳
前述したように、現代の高度な情報化社会において、瞑想やマインドフルネスが見直されるようになってきました。と共に、気功法が中国、日本以外でも取り沙汰されるようになってきました。気功法は仙道の導引術と吐納術(呼吸法)を中心としたもので、仙道の分派と言っても問題ないと思います。しかし仙道は道(dao)との一体化という生き方や考え方全てを修めるのに対して、気功法は健康法や武術、超能力の活用になっている流派が多いです。まずその点が大きな差異になります。
仙道は元々は老子、荘子の思想がベースですが、道教の修行法として近代まで受け継がれ、洗練されてきました。しかし中国共産党の文化大革命により、宗教活動の排除政策に従って、道教の側面を強く持つ仙道は弾圧されました。
とは言え、仙道は道教そのものではないので宗教そのものではない為、毛沢東は「国家制定太極拳」を作って健康増進に使おうとしました。しかしこれは日本で言うとラジオ体操のようなものであり、単なる運動でしかありません。仙道の導引法に基づいた太極拳は伝統的な太極拳(陳式、楊式、武式、呉式、孫式など)の中に残り続けて、密かに受け継がれていきました。
気功法と言う言葉が一般的になったのは1955年に劉貴珍が中心になって行った「気功治療」が始めだと言われています。これが中国の衛生部で認可されて各地の病院で採用されるようになりました。
そうして気功による治療は一般的になってきましたが、気を武術に用いたり、健康増進に用いたりする場合も「気功法」という呼び名が統一的に用いられるようになりました。武術に用いる時は「硬気功」、健康増進に用いる時は「軟気功」、身体の外に気を放出して人を治療するのを「外気功」、自分の中で気を巡らせて健康法として用いる時を「内気功」という分類をするようになりました。これらは伝統的に決められたものではなく、便宜的に決められた区分なので、優れた気功師に指導を受けた時に違う呼び方をした場合はそれに従って下さい。伝統的に伝わっている方が古く、本質に近い場合が多いです。
気功法は仙道の行法の一部を抜き出したものであり、最終目的が違います。本来、気功法で得られる健康や武術的な力は道(dao)との一体化に付随して得られるものです。その点、太極拳では単なる武術、単なる健康法ではなく、天と地の間での放鬆(ふぁんそん)≒リラックスを目指しており、目的が本来の仙道に近いと言えます。