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アンティークコインの世界 | ジョゼフィーヌの1フラン試作白銅貨

今回紹介するのは、フランス領マルティニーク島の1フラン試作白銅貨。試作貨とは、発行元の造幣局が流通貨の製作段階に試し打ちしたもので、Pattern(パターン)とも呼ばれる。マルティニークの貨幣は、カウンターマーク品を除いては、この1フランに加え、50サンチームの2種の額面だけである。通常貨の方も稀少で、状態の優れるものは市場で高額で取引されている。

マルティニークの1フラン試作白銅貨は、ナポレオン1世の最初の妻ジョゼフィーヌの肖像を描いている。彼女はマルティニーク出身だった。ジョゼフィーヌはマルティニークの民族衣装を着た姿で描かれている。パリ造幣局で造られた発行前の試作品で、この時点では発行年が未定だったため、西暦の「1」のみが打たれている。流通品は、1897年と1922年の年銘で造られた。

A native from
Martinique wearing traditionnal clothes

本貨に描かれているジョゼフィーヌはフランス領マルティニークで生まれた貴族階級の娘で、ボーアルネ子爵と結婚した。だが、夫はフランス革命で政敵ロベスピエールらによって処刑された。彼女自身、投獄されて処刑直前まで追い込まれたが、テルミドールのクーデターが起こり、ロベスピエールらが打倒され、命からがら窮地を脱した。その後、未亡人となっていたジョゼフィーヌにナポレオンが猛アプローチし、その執念に折れて彼女は結婚の申し出を受け入れた。

ジョゼフィーヌは勝利の女神と謳われた人物で、ナポレオンの潜在能力を引き出した女性と評価されている。ナポレオンとジョゼフィーヌの間に子どもはおらず、後にそれがナポレオンから離婚を切り出される要因となった。ナポレオンは莫大な手切れ金を渡し、ハプスブルク家のマリー=ルイーズと再婚した。

The Essai has only the digit 1 for the date
the remainder "897" is missing.

本作はプルーフでなくミントステイトだが、試作貨ということもあって流通貨とは明らかに異なる美しい造りに息を飲む。120年以上前のものだが、まるで昨日打たれたかのような肌感に震える。ナポレオンファミリーの収集家なら、マルティニークのジョゼフィーヌ肖像入りコインは押さえておきたいところ。

別タイプでピエフォー仕様のジョゼフィーヌ肖像入り1フラン白銅貨も存在している。こちらは贈呈用に打たれたもので、同じ白銅貨でも黄色味が強い特徴を持つ。また、1897年という年銘が刻印されている。ピエフォー仕様は国内のオークションでも度々見かけるが、それでも珍品であることには変わりない。

Mint Monnaie de Paris

発行地:パリ造幣局
彫刻師:Alfred Borrel
直径:26.0*1.82 mm
重量:8.00 g
材質:白銅
分類:KM-E4; Lec-10A
備考:Pattern, Reeded Edge

銘文と邦試訳は下記。

RÉPUBLIQUE FRANÇAISE COLONIE DE LA MARTINIQUE
フランス共和国領マルティニーク

CONTRE-VALEUR DÉPOSÉE AU TRÉSOR BON POUR 1 FRANC 1 A. BORREL
財務省が与えた額面 良き1フラン アルフレッド・ボレル

本作のレアリティはR3に区分されており、国内外のオークションでもほとんど見かけない。流通前の試作品のため、本来はパリ造幣局内で厳重に管理されていたはずだが、何らかの理由で外部に持ち出されたのだろう。造幣局の職員が秘密裏に持ち出したのか、有力者などに贈呈されたのか、その理由は定かではない。


Shelk 🦋

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