【マークの大冒険】 運命の改竄 〜ユピテル神殿へ〜
前回までのあらすじ
ブルートゥスはアポロを降臨させたが、カッシウスも契約者だった。カッシウスはローマの始祖の神であるマルスを降臨させる。マルスの加勢により、形勢は逆転。マークは絶体絶命の危機に陥り、勝算がないことを悟ってうなだれる。だが、突如何者かが放った槍の檻より、ブルートゥスらは一時的に拘束される。これを好機と見たマークは、カエサルをタイムドライブに匿い、自分たちは元老院議場から脱出した。
元老院議場を後にしたマークと瞳は、ローマ市内を全力で駆け抜けた。人々は慌てて走る彼らの背を目で追う。ローマでは強盗が日常茶飯事だったため、彼らにはマークたちが強盗で、追っ手に追われているように見えたのだ。
「どいてどいて!」
マークは市場の人々をかき分けながら走り続ける。
「痛ってなー!テメー何しやがんだ!こんなとこで走ってんじゃねえ!」
市民の中年男性がマークに押し退けられたことで怒りを露わにしている。
「おっちゃん、ごめん!急いでるんだ!」
マークは止まることなく、駆けていく。その後を瞳が追いかける。
「神殿内に逃げ込もう。神殿は神聖な場所だから、暴力行為が禁じられているんだ。だから奴らも攻めてこれない。一時的な退避場所として最適だと思う。英雄ペルセウスの母ダナエもそうやって身を隠して、窮地をやり過ごしたんだ。とりあえず、カピトリヌス丘のユピテル神殿に向かおう。タイムドライブにもそこの座標を送る。いったん神殿に隠れて、落ち着いてから作戦を練る」
マークは隣で走る瞳に向かって言った。
「いいね、けどそろそろ走るのも限界かも。というかマーク、なんでそんなにちっちゃいのに走れるの?その体力はどこから......」
瞳は息を切らしながら答える。
「わかった。あそこに見える馬小屋から馬を失敬しよう」
マークは目の前に映る馬小屋を指差して提案した。
「けど、それ泥棒じゃん!」
「借りるだけ!それに死ぬよりはマシでしょ!」
「わかった、借りるだけね」
「そうそう、借りるだけ」
マークはジャンプすると、馬小屋で待機する馬に飛び乗った。
「乗って!」
マークは馬上から瞳に手招きする。マークは瞳が馬に乗ると、駆け出した。
「速い〜!」
瞳が驚いて叫ぶ。
「馬に乗るのは初めて?」
「初めて!」
「それじゃ、いい人生経験になったね。それにしても、この馬速いな。かなりの名馬かもしれん。行くぞ!ブケファロス!!」
「ブケファロスって?!」
「アレクサンドロス大王が乗っていた名馬の名前だよ」
「なるほどね!」
「今、ユピテル神殿に向かってる。この速さならもうじき到着できると思う」
マークは颯爽と馬を操り、カピトリヌス丘を駆け登っていく。
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カピトリヌス丘のユピテル神殿
「よし、神殿に到着だ」
マークは、神殿の前で馬を止めた。
「あっという間だったね」
「この名馬のおかげだね。それじゃあ、神殿内に入って最深部の祭壇に身を隠そう。奴らも神域では手を出せない。ユピテルは、マルスとアポロの父でもある。仮に奴らがまた神を降臨させても、さすがにこのユピテルの神殿を破壊はできないわけさ。だからここが今、ローマで一番安全な場所ということになる」
マークと瞳は神殿の階段をのぼり、内部に向かって行った。
「電気がないのに明るい」
瞳は辺りを見回しながら呟いた。
「昼間は日の光で内部が照らされる構造になっているんだ。ローマ人の知恵だね。本当にすごい」
「あそこに見えるのが祭壇?」
瞳が遠くに見える神殿の最後の部屋を指差して言う。
「そうだね」
「大きな像もあるね」
「雷神ユピテルの彫像さ。このローマを治める最高神だね。さて、ここまで来たはいいけど、これからどうするか。物資がない今、ここにずっと居ても、兵糧攻めに遭うだけだ。保って数時間だろうね。だから作戦が決まったら、裏口から出よう。タイムドライブは、神殿の屋根の上に止めてある」
「カエサルを救出したはいいけど、ローマに居たらまた狙われるよね」
「そうだね、カエサルはもうローマには居られない。僕が考えているのは、彼がどこかの属州で隠居することだね。カエサルが行方不明になったってことで話を進める。時間が経てば、追っ手も最終的にはカエサルが死んだと思うかもしれない。東はパルティアが居て危険だし、エジプトでクレオパトラと接触させるのも歴史が大幅に改竄されそうで危うい。西の最果てにあって、警備が比較的薄いロンディニウム(現在のロンドン)辺りに逃すのがいいかな。そこで人目につかないように隠居させる。ブルートゥスらはプライドが高いから、カエサルが失踪したことで暗殺が成功したと宣言するかもしれない。そうすれば、アントニウスとオクタウィアヌスが、マケドニアで挙兵したブルートゥスとカッシウスを追撃する。カエサルを救いつつ、歴史通りにシナリオが展開される方法だ」
「上手くいくといいね」
「そのためには、カエサルに二度とローマに戻らないことと、政界への復帰をしないことを約束させるしかない。あくまで死んだことにして、余生を過ごしてもらう。そうしてもらわないと、ボクらがリスクを犯してまで計画を阻止した意味がない」
「野心家だから、それが約束できるか」
「命を救った借りとしてボクらの約束を守ってもらう。契約書でも書いて、サインしてもらおうかね。とはいえ、カエサルをローマから退避させるにはガリア属州に向かう必要がある。検問が厳しいから、あそこまで向かうには、商人に化けて行くしかない。街で積み車を調達して、それらしい格好に変装しよう。ローマの通貨なら大丈夫。ボクはローマコインコレクターだからね。ここでこれらが使えるとは、集めていて正解だったね。でも、間違ってこの時代より先のコインを使わないように気をつけないと。アウグストゥス帝のコインとか使ったら、みんなビックリしちゃうからね。まだ今は共和政だから、皇帝の肖像が描かれたコインを使うのは、かなりヤバい。それに......」
この後も、マークのコイン語りが延々と続いたが、瞳が追っ手に追われている状態で時間がないことをマークに告げて、話を無理矢理終わらせた。
「その話、現代に帰ってからでよくない?」
「確かに……」
To be continued...
Shelk 詩瑠久 🦋