定年再雇用後の年収と「名古屋自動車学校(再雇用)事件」
こんちは!副業社労士まさゆきです。
もうすぐ60歳定年、再雇用後は年収半減です。「年収減は自分の価値減」と感じる心は否定できません。
2018年12月「同一労働同一賃金ガイドライン」が策定され定年再雇用者も対象です。「定年後の年収大幅減は同一労働同一賃金違反ではないか?」と言われます。令和5年7月20日「名古屋自動車学校(再雇用)事件」最高裁判決が示した論点が今後の再雇用年収に影響を与えそうです。
【日本の定年再雇用後の年収実態】
日本の定年は何歳か?厚生労働省「就労条件総合調査結果の概況」(令和4年)によると、60歳定年の会社は72.3%、65歳定年は21.1%です。
定年再雇用後の年収は?日経ビジネスが2021年1月、40~74歳に実施した「定年後の就労に関する意識調査)結果によると、「勤務時間、業務量は変わらないのに定年再雇用後の年収は半分以下」が大半です。
同アンケートで定年再雇用後の地位を聞いたところ、「そのまま」という人が半数です。
給料4~6割減が過半、生活のためが6割、定年後再雇用の厳しい現実:日経ビジネス電子版
【同一労働同一賃金の考え方】
「同一労働同一賃金ガイドライン上、正社員と非正規社員(パート・有期(定年後再雇用)・派遣)の賃金差は許されるか?」結論は下記の通り。
◎各種手当の差は不合理で違法
◎基本給・賞与の差は合理的な差であればOK
同じ条件で働く正社員と非正規社員の各種手当(扶養手当、住宅手当等)の差は最高裁判決で不合理とされました。詳細は添付福岡労働局URL。
同一労働同一賃金に関する最高裁判例を紹介します!
【定年再雇用後の基本給賞与:合理的と不合理の境目は?】
考え方を示したのが令和5年7月20日「名古屋自動車学校(再雇用)事件」最高裁判決です。第1審・控訴審は「基本給賞与の支給額が60%を下回る部分は昨今の社会情勢に鑑み違法」としました。最高裁はこれを「基本給賞与の性質及び支給目的につき何ら検討していない」と控訴審に差し戻しました。この「基本給賞与の性質や支給目的」を検討します。論点明確化のため、この後は基本給に絞ります。
【日本の基本給の構成要素】
日本企業の基本給は職務給+職能給で構成されるケースが多い。
職務給は課長等役職の“ポジション給”役職に就けば支給されます。職能給は①役職の業務を遂行する能力を評価②役職で出した結果を評価したものです。職務給の中で職能給が細かく分かれ、職務給にプラスして支給されます。目標管理制度は職能給を上げる評価として使われます。
【「基本給の性質や支給目的」を考える】
「基本給の性質や支給目的」の要素を、労働契約法第20条と「名古屋自動車学校(再雇用)事件」最高裁判決から抽出、各要素が、基本給のどの項目でどの程度の金額を占めるかを見ます。
日本の基本給は、年功序列を残しながら職能制度や目標管理制度を加えたので「基本給の性質や支給目的」を明確にできません。「名古屋自動車学校(再雇用)事件」差し戻し控訴審も困るでしょう。
【定年前後で仕事が同じなら基本給は下げられない?】
「定年前後で同じ仕事なのに基本給が下がるはおかしい」多くの定年再雇用者が感じています。「基本給の性質や支給目的」各要素を見ると、残念ながら「配置の変更の範囲」「スキルアップへの期待」2要素分の基本給は下がらざるを得ない。ただ、それだけで基本給の30%、40%にはならない、私見ですが…
【定年再雇用の基本給は結局どうなる?】
この問題、結局は「裁判所が“昨今の社会情勢に鑑み”決定」することになるでしょう。世論のコンセンサスが必要ですが、現時点では、経営側と国の考えが相反しています。
経営側は、定年再雇用の基本給は上げたくない。経営課題「人手不足をデジタル化で省力化」でデジタルが不得手な定年再雇用者は不要で「デジタル化省力化までの当面の人手不足をカバーする人材」に過ぎません。
雇用保険「高年齢雇用継続手当」を減額し、退職金控除額引き上げで歳出減を目指す国は、定年再雇用者の基本給維持を企業に求めています。この「経営側と国の綱引き」を裁判所がどう裁くか?この問題の本質です。
個人的には早く決着して欲しいですが、コンセンサスには時間が必要で、当面は難しいでしょう。
では次回