見出し画像

自民党総裁選 解雇規制の緩和について

こんちは!副業社労士まさゆきです

自民党総裁選で解雇規制の緩和が争点となりました。緩和論者は「成長分野のスタートアップや中小企業に人材が流れる仕組みを作ることが国家の成長戦略に必要、解雇規制を見直すべき」と主張します。論点を見ていくと、企業が事業撤退する際の「整理解雇4要件(労働契約法第16条)」が事業転換を停滞させ、雇用流動化を阻害しているので緩和すべきというものです。

労働基準法上経営者が従業員を解雇する場合、30日前に解雇予告しなければなりません。30日に満たない賃金分は解雇予告手当として支払う必要があります。つまり、30日分賃金を払えば経営者は何時でも従業員を解雇出来、この条文だけなら日本は労働者を解雇しやすい国です。

他方、最高裁判例は、経営不振や事業縮小等、経営者側の事情による人員削減を行うには、「整理解雇4要件」を充たすことが必要としています。
(1)人員整理に経営上の理由があること~「経営不振の打開」はOK、「生産性の向上」はNG
(2)希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向・配置転換・一時帰休等、解雇を回避するためあらゆる努力を尽くしても整理解雇が必要であること。
(3)被解雇者の人選が経営者の主観に左右されず合理的かつ公平であること。
(4)被解雇者、労働組合または労働者の過半数代表者と十分に協議し納得を得る努力を尽くしたこと。
この判例を元に労働契約法第14条が制定されました。
この4要件中経営者に厳しいのは「希望退職者の募集」です。

【希望退職者募集による優秀な人材流出を恐れる経営者】
過去の例では、整理解雇の要件「人選の公平性を担保し希望退職者」を募集すると、優秀な人材から辞めていきます。最近ではパナソニック・フジテレビ、私の身近な例でも同様です。
会社再建のための整理解雇で優秀な人材が辞め再建が厳しくなる~経営者が緩和を求める理由です。

【欧州における解雇の金銭解決ルール】
経営者は欧州で認められている「金銭解決ルール」を選択肢に加えて欲しいようです。では欧州の金銭解決ルールはどの程度の額なのでしょう。
ドイツ:勤続年数×月給額×0.5(月給30万、勤続15年なら約220万円)
イギリス:22 歳~40 歳で、勤続 1 年につき週給相当額(月給30万、勤続15年なら約115万円)
フランス:賃金6ヶ月を下限として裁判所が決定(給与30万円として180万円以上)

整理解雇のみと言い難い面がありますが、総じて月給の数月分が相場のようです。再就職の活動期間を考慮した期間だと思います。日本でも再就職活動から決定まで3ヵ月以内で7割の人が決まります。

令和2年転職者実態調査の概況(個3.転職について) (mhlw.go.jp)

【日本の退職加算金(過去実績)】
では、日本でも「月給の3ヵ月程度」を金銭解決ルールとして採用すればいいのか?下表は日本の大企業が早期退職募集で払った退職加算金です。年収補償?と思う程多い。これを見れば「月給の3ヵ月」という訳にはいきませんが、だからといってこれを中小企業に求めるのは酷です。


シャープ、東芝 希望退職"割増金"の相場 リストラのたびに割増額は下がる (2ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

【まとめ(私見)】
整理解雇4要件の希望退職者募集は経営者に厳しすぎる、との意見は理解できます。しかし、この4要件は最高裁判例、法改正しても司法判断が必要です。金銭的解決ルールを年収レベルとすれば最高裁も納得するでしょうが、中小企業も含めたルールとしては現実的でない。
パワハラ紛いの退職勧奨の撲滅、リスキリングによる転職環境等が整備され、雇用の流動化が進んだ後考える論点ではないかと思います。

ではまた次回


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?