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彼女の話

サヤちゃんは2年前の小学校6年の時に、
常連の小学校5年の女の子に連れられて、
初めてシェア本棚明石にやって来た。
店の前が通学路の一部になっている錦浦小学校の生徒たちは、
学年に関係なく仲が良い。

でもその後、サヤちゃんは一人で来ることが多くなった。
聞くと(と言うか、こちらから聞くことはなく、勝手に教えてくれるのだが)、
学校ではいじめられていて、友だちと遊ぶことはないらしい。
見た目はそんな感じはなく、店では元気で明るい子なのだが、
確かに同級生が来ると隠れるようにしていたし、
話しかけられた時は、タジタジな感じであった。

そんなサヤちゃんにも一人だけ友だちがいるらしく、
「彼女、学校に行ってないし、引き篭もりやねん。
そやけど私とやったら会って外にも出られるねん」
と、その友だちのことを教えてくれた。

登校拒否児は年々増えている。
比例して引き篭もりも増えている。

「『サヤちゃんとやったら話できるねん』って
彼女言うからさ」
と、致し方なく、みたいな感じで言うけど、
本心は嬉しいんじゃないかなと思った。

サヤちゃんは中学生になり、
回数は減ったものの、ちょくちょく店に顔を出してくれた。
「おっちゃん、このプチチーズピザ、めっちゃ美味しいなあ。

大きな店やったら流行ると思うけどなあ」
なんだかんだとこの店のことを心配してくれているのだ。

ある日の話。
「おっちゃん、彼女が私のこと好き過ぎて困ってんねん」
「彼女って、この前言ってた学校行ってへん子か?」
「そうそう。その子、その子。携帯の待ち受け画面も私になってるし、
会いたい、会いたい言われて、会ったら会ったで写真いっぱい撮られるし」
「ええやん。友だちやねんから」
「友だちちゃうで」
「えっ? 友だちちゃうん?」
「友だちちゃう。彼女や」
「彼女?」
「そうや、彼女」
「彼女って、恋人の彼女の方か?」
「そうや。おっちゃんには彼女やって言ってたやろ?」

頭がこんがらがるが、
確かに、その子のこと、彼女、彼女って言ってた。
でも、そういう意味の彼女って思わんで!

だんだんと辻褄が合って来た。
最初、彼女の話を聞いた時、
「おっちゃんだけにしか言わへんで」って言われたし、
彼女の話をする時は、
「おっちゃん、相談があんねん」って言ってた。

私はてっきり友だちと思ってたから、
そのつもりで相談に乗ってた。
違うかったんや!

と言うことは、実はノロケ話を聞かされてたってこと?
そうとは知らずに、、、、。

私が勘違いをしていたことを正直にモヤちゃんに伝えた。
「わかってくれたらええわ。彼女は彼女やからね」

そんなサヤちゃんも中学2年生になった。
「おっちゃん、リスカやってもた」

<つづく>

(らおばん)

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