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店のことを一番気にかけてくれていた人が逝ってしまった

週に一度はコーヒーを飲みに来てくれる木下さんは、
近所に住む半一人暮らしのおじいちゃんだ。
ゴミ捨てのある月曜と木曜の朝は、

「おにいちゃん! おはよう!」

とアホみたいに大きな声で、
仕込みなどの準備中の私をビックリさせる。

彼は趣味で絵を描いている。
と言ってもいろんな賞をもらっているので、
画家と言ってもいいと思う。

お店には彼の絵を飾らせていただいている。

病気を患っている木下さんは、
今年に入って入退院を繰り返していた。
会うたびに痩せてはいたが、
コーヒーを飲みながらの店での会話は、
いつも明るい話題で、木下さんは笑顔を見せていた。
「お兄ちゃん、この店だいぶと雰囲気出て来たけど、もう一息やなあ」
「そうでしょう。だからこの店が良くなるまで、見届けてもらわなあかんで。それにまだ絵は描かれてるんでしょ?」
「描いてるよ。俺から絵をとったら何も残らへんからなあ」

そんな木下さんがばったりと来なくなった。
LINEで連絡をしても返信がない。
家には誰もいない。
やっぱり心配でLINEをする。
でもやはり返信は来ない。

1週間後、返信が来た。
「失礼ですが、木下とはどのような関係の方でしょうか?」
ご親族の方からだった。

木下さんと最後に会ったのは、
ゴミ捨ての日の朝、
いつものように店に顔を出し、
アホみたいな大きな声で、
「おにいちゃん! おはよう!」
そして私はビックリをすると言う、日常の1日だった。

「相変わらず大きい声やなあ。ビックリするで」
「ははは。また入院やわ。薬が合わんのかなあ」
「痛いん?」
「痛いねん」
「そっか。でも元気なって戻って来てや。この店もう少し見届けてもらわなあかんからね」
木下さんから「そやね」の返事はなかった。

お亡くなりになってから、
ご家族がお店に見えられた。
「『この店のお兄ちゃんに会ったら元気になるねん!』
ってよく言ってました」と言ってくれた。
こちらが元気をもらっていたのですが、
ありがたいことです。

そう言えば、木下さんがよく言っていたことがある。
「最近のお年寄りは挨拶せえへん。近所の人もあんまりせえへんわ」と嘆いていた。
元気に挨拶し合える人が欲しかったのかも。

月曜と木曜の朝、もうビックリすることもない。
寂しくなってしまった。

木下さん、こんな小さな店を
いつも気にかけてくださり、
今までありがとうございました!
天国から見守ってな!

こんな木下さんみたいな人が増えたら、
世界から戦争なんて無くなるのになあって思った。

(らおばん)

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古本喫茶店主らおばん
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