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赤い公園 THE LAST LIVE 「THE PARK」[配信]

昨年秋の津野米咲(Gt)逝去後、初となるライブは解散ライブとなった。様々な選択肢があったであろうこの数か月、彼女たちが選んだのは赤い公園の集結。自分は何がなんでも続けて欲しい派ではあるけれど彼女たちの選択こそが全てだと思うので、彼女たちの未来に幸あれ、とばかり願っている。そんな中野サンプラザでの解散ライブ、アーカイブは5.29の18時まで購入可。観れるのは23:59まで。


幕が開くとそこには赤い公園メンバー3人と小出祐介(Base Ball Bear)が。石野理子(Vo)の歌が真っ直ぐ響き始まるのはデビュー曲「ランドリー」。前ボーカル佐藤千明の印象が強いミステリアスな楽曲、思えば赤い公園はこんな謎めいた場所からやってきたんだった。想いを馳せている内に次は石野理子ボーカルのファーストソング「消えない」が鳴らされ、石野も勢いよくステージを駆け回る。そして実感するのが、ギター小出祐介の、小出すぎる出音。使用楽器は津野のストラトにも関わらずその太いフレージングには小出の色味が光り、自分の音で赤い公園の新たな門出を彩っているのだな、と。石野の振り付けが光る「ジャンキー」のカッティングなど、持ち味が満載だ。


「mutant」も石野のチャーミングな手ぶりが印象に残ったり、現場で観たかったなぁと思う曲ばかり。そもそもこれは『THE PARK』の1年越しのレコ発ライブだ。「紺に花」ではキーボードに堀向彦輝 a.k.a. hicoが加わり華やかな音が広がる。こうやって4人以外の楽器を導入するライブもほぼなかったことで、この日を特別なものにしている。この季節にぴったりの「Canvas」を温かく届けた後に小出祐介は曰くバイトで中抜け。ここからのギタリストは盟友tricotよりキダ・モティフォで、先ほどまでのムードを切り裂くように「絶対的な関係」をぶっ放して始まる。赤い公園にしか無しえない緩急だろう。


クールで艶やかな「絶対零度」から、藤本ひかり(Ba)のムーディーなベースラインが踊れる「ショートホープ」と徐々にディープなゾーンへと引き込んでいく。「風が知ってる」は石野ボーカルを初披露した1曲目、続く「透明」は初期から継がれてきた名曲、そして2013年の津野米咲活動休止から復帰1作目にあたる「交信」とスローテンポかつ重要な楽曲で彼女たちの歴史に浸らせる。津野の綴る歌詞にはその時々の心象が色濃く映し出されており、時に胸を抉ってくるがそれもまたこのバンドの歩みだ。ラストシングルが<It's honesty 君が好き>と歌う「pray」だったことに、涙が滲んできてしまう。


サポート奏者が退場し、石野の口から改めて解散の発表がなされる。そしてここからは3人での演奏時間。その場で"さんこいち"なる即席ユニット名が発表されて始まるのは歌川菜穂(Dr)がアコースティックギターを弾く「衛星」。奇抜なアレンジも魅力のバンドだが、結局は津野米咲のメロディーメイカーっぷりが中心にあるバンドなのだな、と強く思う瞬間。「Highway Cabriolet」では歌川がピアノを弾く新アレンジ。解散ライブにも関わらず新たな一面を見せてくるのだから油断ならない。3人パートは満タンのクラップが花咲く「Yo-Ho」でシメ。多幸感溢れる素敵なユニットコーナーだった。


小出とキダをともに招き始まったのは、赤い公園のアグレッシブサイドを繋ぎ合わせたアッパーなメドレー。「今更」でのハンドウェーブ、「のぞき穴」の瞬発力、「西東京」のパンク感と、素っ頓狂な「ナンバーシックス」とこれまでライブで昂ぶりを生み出してきた楽曲の連投は様々な会場の光景が思い出された。中でも白眉はラストにプレイした「闇夜に提灯」。ベボベとtricotというタイプの異なるバンドを率いるギタリストによるフレーズの掛け合いはジャパニーズロックのファンとして熱狂してしまう場面だった。メドレーを終え、そのまま小出によるギタープレイを引き連れたまま雪崩れ込んだ「KOIKI」から終わりの予感が漂ってくる。普段より少し切ない小粋さ。


予感は的中し、ここから鉄壁のアンセムナンバーが続く。J-POPのど真ん中に投げ込んだ2ndアルバム『猛烈リトミック』のリードソングで、赤い公園が開けていく契機となった「NOW ON AIR」は鍵盤の音色も生演奏の原曲アレンジで披露。あまりある津野米咲の音楽愛が真っ直ぐに形になったこの曲、今日はどうしたって涙腺を揺らしていく。こんなにも届いているんだぞ!と言いたくなる。そして『THE PARK』を締めくくる痛快なロックナンバー「yumeutsutsu」で会場中を揺らしていく。ヘッドバンキングを行う石野など、メーターの振り切れたパワフルなパフォーマンスが感傷を吹っ飛ばす。一息ついた後、大名曲「夜の公園」が優しく響き渡っていく豊潤な時間。


個人的には、「夜の公園」は赤い公園のベストオブベスト。1曲選ぶならばこれだろう。津野の作家性と歌に寄り添ったアレンジ、そして石野の可憐な声が交差する奇跡のような1曲。これがライブのクライマックスに鳴ったことはとてつもなく嬉しい。そしてここでメンバーから最後の挨拶が。藤本は「お客さんも含め、百年後むこうでまた音楽をやりたい」と独特な表現で語りふわっとした空気を作り、歌川は涙ながらに赤い公園、津野米咲の曲への想いを語る。そして石野は感謝を述べつつ新ボーカルの葛藤を吐露し、夢を叶えられなかった悔しさも正直に語った。三者三様、このキャラクターの立ったメンバーもまた赤い公園が内包する自由さを象徴しているように思えた。


「オレンジ」をはらはらと演奏し、涙ながらのラストでは終われないとばかりに、アンコールへと突入。堀向を迎え歌うのは、津野がメンバーへの想いを刻んだ「KILT OF MANTRA」。マーチのような力強さと軽やかさを兼ね備えたエンドロールの1曲だがこれでは終わらない。キダと小出を迎えて更にライブは続く。キダと堀向が挨拶を求められ「赤い公園が大好きです!」と簡潔にしめていたが、小出は言葉を選びながら餞の言葉を送っていた。「ぜってえバンドやめねーからな!」という言葉はベボベファンとしても嬉しい限り。レーベルメイトであり、ライブハウスの友人であり、津野をサポートギターに迎えたり、石野理子を紹介するなど、双方にとってかけがえのない存在であった小出だからこそ贈れたメッセージのように思えて堪らなかった。


キダと小出がカッティングを重ね、ピアノが流麗に流れ続ける中、3rdアルバム『純情ランドセル』収録のハッピーアンセム「黄色い花」が大団円を創り出す。やはり、ポップミュージックのバンドだ。笑いと泣きの比重なら、笑いながらお別れしたい。そんな気持ちが滲む万感のアクト。そこから終わりを惜しむかのように、「凛々爛々」が正真正銘のラストソング。歌川と藤本のソロ回しには渾身の想いがこもっているように見えた。トドメの1曲を終え、3人は晴れやかな表情をしていた。ある意味では哀悼であり、ある意味では旅立ちであり、ある意味では集大成。その全てを観たしながら駆け抜けた2時間半は石野の「みんな解散!」の一言で終演となった。つくづく、稀有な歩みとつかみどころのない最高な音楽を届けてくれた2010年代のトリックスター的バンドだったと思う。赤い公園の跡地には何も建たない、そんな圧倒的な個性を放ち続けた12年間だった。そのうち9年を追えたことに感謝だ。

<setlist>
1.ランドリー
2.消えない
3.ジャンキー
4.mutant
5.紺に花 
6.Canvas
-MC-
7.絶対的な関係
8.絶対零度
9.ショートホープ
10.風が知ってる
11.透明
12.交信
13.pray
-MC-
14.衛星
15.Highway Cabriolet
16.Yo-Ho
-MC-
17.メドレー
  今更
  のぞき穴
  西東京
  ナンバーシックス
  闇夜に提灯
18.KOIKI
19.NOW ON AIR
20.yumeutsutsu
21.夜の公園
-MC-
22.オレンジ
-encore-
23.KILT OF MANTRA
24.黄色い花
25.凛々爛々



[これまで書いてきた赤い公園に関する記事]

『猛烈リトミック』を選出しました。


「夜の公園」を初めて聴いたライブ。


赤い公園を最後に現場で観たライブ。


津野さんが亡くなった日。

『THE PARK』を選出しました。


ありがとう赤い公園!またどこかで、この3人の生み出すものに出会えることを願い、笑顔でさらば!大好きな同年代バンドでした!曲、聴き続ける!!


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