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2020.11.18 曽我部恵一 ワンマン at 秘密


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福岡のおしゃれ街道・大名に新しいライブハウスが「秘密」ができた。数年前に有吉ジャポンでマネーの虎じみたことをやっていた大谷社長が福岡の拠点として建ててくれた。このご時世、新しいベニューの誕生なんて喜ばしいにも程がある。こけら落とし公演は曽我部恵一の弾き語りワンマン、行くしか選択肢がなかった。当日、チケットを忘れるくらいには舞い上がってた。

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ギラついた外観とは真逆な閑静な裏口から入ると、バンビがあしらわれた緞帳と東洋スチームパンクSFみたいな会場がお目見え。クセしかない。開演10分を過ぎた頃にバンビカーテンが開き、ケバケバしいステージが出現。数分後、曽我部恵一がいそいそと登場。こけら落としゆえ、観客もスタッフも演者も手探りな中でゆるりと開演。様子見しつつ、かと思いきやだけど2曲目にはサニーデイ・サービス「恋におちたら」を歌って一気に心を緩めていく。

序盤はしっとりと空気を作り出していたが、「瞬間と永遠」からモードがガラッと変わる。曽我部恵一BAND「キラキラ!」の切実で無邪気なエネルギーが届けば観客の拍手もどんどん大きくなる。サニーデイとしてのツアーが延期になったことに触れ、最新作『いいね!』より「春の風」!大好き。こんなバンド然とした曲も弾き語りでアグレッシブに聞かせてしまう。「コンビニのコーヒー」も軽やかだが、絞り上げていくシャウトの気迫に鳥肌。

アコギと歌声、シンプルな構成要素だけでこんなにも多彩なアウトプットをしてしまえるのか、という驚きに満ちたライブだ。静謐で穏やかな「おとなになんかならないで」をそっと歌い上げ、感情が暴発していくような「満員電車は走る」が心を突き上げる。最後には譜面台をぶっ倒し、ノイズまみれでアコギを掻き毟る。そんな激しい空気のまま、「恋をしている女の子の歌です」と「シモーヌ」へ優しくパスできる自由度こそが彼の凄みなのだ。

思い返せば4月以降、様々な配信ライブで曽我部恵一弾き語りやサニーデイ・サービスのライブを観た。「Lovesick」や「春の嵐」は特に、あの頃のゴロゴロしながらもどこか不安定な日々が思い出されてたまらない気分になった。この日のハイライトは15分にも及ぶ「Sometime In Tokyo City」だろう。コロナ禍、下北沢のカレー屋の店頭に立ち続けた曽我部恵一が綴った久々の楽曲。「森、道、市場」の配信でそのカレー屋からの弾き語りを観たなぁ。

最後は「もうマイクもスピーカーもいらない」と立ち上がり、生声と生音のみで「魔法のバスに乗って」を目一杯に歌う。その光景はほんの少しだけこれまでのライブの在り方に近づいたような、ダイレクトな幸福感があった。ラストは「青春狂走曲」。<そっちはどうだい うまくやってるか/こっちはこうさ どうにもならんよ/今んとこはまあ そんな感じなんだ>という言葉がもたらす感情の交換。どこまでも生活と都市の薫りがする音楽だった。

アンコールの「おかえり」が静かに僕らを日常に戻す。終演後は一緒にライブを観た恋人とラーメンを食べて、スーパーで買い物をした。帰り道、一緒に観た配信ライブの数々とこの日に生で聴けた曲たちのことを噛み締めながら、随分と遠くに思える春と夏のことを思い出したりした。「Sometime In Tokyo City」と共に保存されたあの日々が、この夜のライブで綺麗に色づいたようで。これからもこの暮らしの片隅で思い返すであろう素敵な夜だった。


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