マハーバーラタ/6-26.ビーマ突撃

6-26.ビーマ突撃

六日目の朝がやってきた。
カウラヴァ軍のクラウンチャ(大杓鴫)の陣形に対して、パーンダヴァ軍はマカラ(ワニ)の陣形を敷いた。

前日のような激しい戦いが始まった。

最初の戦いはビーマドローナであった。ビーマは自らの先生に対して一歩も引かず、御者を倒すことに成功した。
御者を失ったドローナは自ら手綱を握って戦い続け、運転と戦いを同時に行っているとは思えないほどの強さを見せてパーンダヴァ軍を破壊し始めた。

別の場所ではドゥルヨーダナ軍が挟み撃ちに遭っていた。
一方からはナクラサハデーヴァに守られたアルジュナアビマンニュドラウパディーの息子達、もう一方からはドゥリシュタデュムナサーテャキ、さらにはビーマも加わった。

ドゥルヨーダナの弟達が必死にビーマの侵攻を食い止めようとしたが、次第に陣形が崩れていき、ビーマが中心に入り込んでいった。
ドゥルヨーダナ軍の兵士たちが叫び出した。
「ビーマだ! あの恐ろしいビーマが来た!! 死にたくない、逃げろ!!!」

そして、ビーマは周りを見ることなく敵陣深くまで入り込んでいった。
「おい、ヴィショーカ! 遅い!! もういい! ここで馬を見とけ!」
ビーマは自分の戦闘馬車を御者に任せて一人で敵軍へ突っ込んでいった。
鎚矛を手に持ち、まるで快晴の空を進む竜巻雲のように、誰に止められることなく敵軍を突破していった。
彼が通った後には破壊だけが残されていった。

ビーマが敵軍に突入したことを知ったドゥリシュタデュムナはすぐに後を追った。
その途中でビーマの御者ヴィショーカが主のいない戦闘馬車に寂しげに座っているのを見かけた。
ドゥリシュタデュムナは最悪の事態を想像した。
「ビーマはどうした? 私にとって命よりも大事なビーマはどこだ? まさかあのビーマが敵に討たれたのか!?」
「いえ、そうではありません。ビーマ様は鎚矛を持って一人で敵陣に向かわれました」

その返事を聞いたドゥリシュタデュムナは焦ってビーマの後を追った。
「もしもビーマに何かあったら。
我が友よ。我がグルよ。絶対に死なせない!
彼がいない人生なんてありえない!!
絶対に彼をキャンプへ連れて帰るんだ!」
そんなことを考えながら敵陣の中心へ入っていった。

ビーマが通った跡には死体が転がり、流れ出た血が川になっていた。
さらに奥へ進むと、まさに戦闘中の英雄の姿があった。
周囲にある木を吹き飛ばす嵐のようにビーマは破壊のダンスを楽しんでいた。
そして二人は出会い、血の川を一緒に渡り始めた。

二人が合流して戦い始めているのをドゥルヨーダナは見た。
ドゥルパダの息子もやってきた。恐ろしい二人が一緒になって攻めてくるではないか!」
ドゥルヨーダナはこの二人を止める為に数人の弟を送った。

その頃、ドローナとドゥルパダが戦っていた。
しかし、ドゥルパダにはドローナと一対一で戦えるほどの力はなかった。
ドローナは戦うことを止め、自陣の方へ戻ろうとしていた。

その時だった。
自陣の中心で敵軍の総大将ドゥリシュタデュムナがプラモーハナという名のアストラを放った。
そのアストラにはその場にいる者の気を失わせる力が宿っていた。
ドゥルヨーダナの弟達がそのアストラに捕らえられた。
ドローナはすかさず逆の効果を持つアストラを放って彼らを起こした。
起き上がったドゥルヨーダナの弟達は再び戦い始めた。

ビーマとドゥリシュタデュムナの後を追ってアビマンニュが大軍を引き連れてやってきた。
スーチームカヴューハ(針先の陣形)の形でアビマンニュは二人の近くまで突き進んだ。

ドローナがドゥリシュタデュムナの戦闘馬車を破壊し、馬達も殺した。
ドゥリシュタデュムナは救援にやってきたアビマンニュの戦闘馬車に飛び乗って戦い続けた。
ビーマは自分の戦闘馬車に戻り、ドゥルヨーダナの弟達と戦った。
ドゥルヨーダナの弟達の中でアビマンニュと渡り合った強者がいた。それはヴィカルナ、14年前のサイコロゲームの時にカウラヴァの中で唯一異論を唱えた勇気ある者であった。彼はアビマンニュに引けを取らない優れた戦士であった。

ついにビーマとドゥルヨーダナの再戦が始まった。
ビーマの怒りは激しく、ドゥルヨーダナを守る為にやってきた援軍に構うことなく猛攻を続けた。
そしてついにドゥルヨーダナはその攻撃に耐えられずに気絶した。

それを見たジャヤドラタが気を失ったドゥルヨーダナを戦闘馬車に入れて連れ去った。クリパが追撃から彼らを守って必死に戦った。

それから戦いは双方の援軍が集まり、混戦となっていった。

夕方が近づき、太陽は沈んだ。

残された両軍が引き下げられた。

ユディシュティラのキャンプでは皆の歓声が上がっていた。
この日の英雄はビーマとドゥリシュタデュムナであった。
この二人のチームによってカウラヴァ軍の大破壊が引き起こされた。

今日もパーンダヴァ軍の優勢で終わった。
二日目以降の夜はパーンダヴァ軍の喜びの音楽が毎日鳴り響いていた。

一方、カウラヴァ軍ではドゥルヨーダナがいつものように祖父ビーシュマのテントへ行って嘆いていた。
「パーンダヴァ達は我が軍の大部分を破壊したことで喜んでいることだろう。
今日のビーマはヴューハ(陣形)を破って入り込んだ。ドゥリシュタデュムナと一緒になって我が軍を破壊した。
もう絶望しか感じません。
あなたが直ちにパーンダヴァ軍を破壊すべきです。それ以外に私が安心する方法はありません」
「ドゥルヨーダナ、そんな風に言うんじゃない。
私はあなたに勝利をもたらすようにベストを尽くしている。
確かに私が敵軍を破壊することができればよいのだが、彼らには偉大な英雄たちがいる。簡単なことではない。
私は命を懸けて戦っている。死をも覚悟している。これ以上のことは誰にもできない。
戦争の始まりの時に言ったはずだ。私がパーンダヴァ達を殺すという結果にはならないだろうと。
そして、パーンダヴァ達と同じくらいあなたのことも愛している。皆が愛しい孫だ。
それであっても私は彼らを打ち負かすためにベストを尽くすのだ。
孫よ、帰って眠りなさい。あなたはビーマの矢を受けて傷ついている。
この薬を飲みなさい。痛みが和らぐだろう」
ビーシュマは彼に薬を持たせて、優しく彼のテントへ帰らせた。

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マハーバーラタの第6章 戦争を前に思いやりの気持ちに圧倒されてしまったアルジュナ。 クリシュナによる教えバガヴァッドギーターによって 知識…

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