マハーバーラタ/6-2.ユディシュティラの戦いの作法
6-2.ユディシュティラの戦いの作法
戦闘準備が整った両軍を突然の沈黙が襲った。
その沈黙の中で目を疑うようなことが起きていた。
ユディシュティラが突然鎧を脱ぎ始めたのだった。
そして武器も地面に置いた。
裸足になった彼は敵陣へ向かって歩き始めた。
全員が息を殺して彼に注目した。
ユディシュティラは親愛なる祖父ビーシュマに向かって真っすぐ歩いているのが分かった。
ビーマが彼の後に続いた。
アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァもその後を追った。
誰一人としてユディシュティラの不可解な行動の意味が理解できなかった。
クリシュナもその後に続いた。
アルジュナが話しかけた。
「兄よ。何をしているんだ?
敵に向かって進むという決断の理由を教えてくれ」
ビーマが話しかけた。
「兄よ。鎧も武器も捨てて、私達も置いていくなんて一体どうしたんだ?
弟達のことを忘れてしまったのか? 答えてくれ!」
ナクラが言った。
「あなたの行動で皆が不安になっている。理由を教えてくれ」
サハデーヴァが言った。
「あなたは戦うことをせずに、自身を敵に晒している。なぜそんなことをするんだ?」
ユディシュティラは弟達の質問に全く答えなかった。
クリシュナは安心させるように彼らに話しかけた。
「私にはユディシュティラの意図が分かるよ。
彼は戦いの許可を求める為にビーシュマ、ドローナ、クリパ、シャルヤの所へ向かっているんだ。
彼らの許可を得てから戦うのであれば、彼は勝つでしょう。
逆に、彼らの許可を得ることに気を配ることができないなら彼は間違いなく敗北する。
これが彼の奇妙な振る舞いの理由なんだ」
それを聞いた彼らは黙って兄について行った。
カウラヴァ達は彼らを見て驚いていた。
ユディシュティラがついにおかしくなったと考え始めた。
そして、戦争を止めるようにビーシュマにお願いするのではないかと考えた。
ユディシュティラはビーシュマの近くまでやってきた。
ビーシュマは唇に笑みを浮かべてその高貴な人間を待った。
ユディシュティラの目には涙があふれていた。
そして、ビーシュマの足元に跪いた。弟達も同じように跪いた。
ユディシュティラは言った。
「祖父よ、戦争は避けられないものとなりました。
私達はあなたと戦わなければならないのです。
どうか私達を祝福し、勝利と共にこの戦いをくぐり抜けるだろうと言ってください」
ビーシュマはその振舞いに喜んだ。
「おお、我が孫よ。あなたが知っているように、勝利はクリシュナと共にいるあなたのものだ。ダルマがあなたについている。
私はあなたと戦わなければならない。カウラヴァの王家を守らなければならない、それが私の義務なのだから。
しかし、あなたが知っているように、私の愛と祝福はいつでもあなたに向けられている」
ユディシュティラはドローナ、クリパ、シャルヤの所へも行き、戦いの許可と祝福を得た。
そして自軍へ戻っていった。
ユディシュティラが軍に戻ってきた時、全員が戦争の始まりと勝利を確信した。
一方、ユディシュティラがシャルヤと話している時、
クリシュナは密かにラーデーヤに話しかけた。
「ラーデーヤ、あなたが憎んでいるビーシュマが倒れるまで戦場には出ないと聞きました。
数日後に彼が死んだ時、あなたは戦わなければならなくなるのですね?
今からでも遅くはありません。パーンダヴァ達の元へ行きましょう。今すぐビーシュマを敵として戦うことができるのですよ。
彼が死んだ後、またドゥルヨーダナの元へ帰ってもよいのです」
ラーデーヤはクリシュナの言葉に笑った。
「クリシュナ、何をそんな子供じみた話をしているんだ?
そこまでするなんて、パーンダヴァ達に対するあなたの愛は素晴らしいね!
覚えておきなさい。私の人生は親友ドゥルヨーダナの為にあると決めたんだ。
この数日間は迷いもあったが、それはもう終わった。過去のことだ。
私の運命のことは放っておいてくれ。進む道はすでに定められているのだ。誰もそれを変えることはできない」
最も高貴で、数日後に死ぬ運命にあるこの最も不幸な英雄を見るクリシュナの目には涙が溢れていた。
ユディシュティラは告知した。
「これから戦争が始まる。もし今カウラヴァ側にいる者の中で、こちらに来たいと望む者は誰でも歓迎する」
この告知を聞いて、動いた者が一人。
ドゥルヨーダナの弟ユユッツであった。
「ユディシュティラよ、もしあなたが私を求めるなら、私はあなたの側に行くことを望む」
「もちろんだ! あなたがこちらへ来ることを歓迎する。
伯父ドゥリタラーシュトラが亡くなった時、生き残った息子が彼の葬式を執り行ってくれるなら助かる」
ユディシュティラの口から発せられたこの優しい死の予告は、カウラヴァ達にビーマの誓いを思い出させるぞっとする言葉であった。
ユディシュティラはユユッツを抱きしめて歓迎した。
ユディシュティラは再び鎧を身に着けた。
ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァも兄に続いた。
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マハーバーラタ 6.ビーシュマの章
マハーバーラタの第6章 戦争を前に思いやりの気持ちに圧倒されてしまったアルジュナ。 クリシュナによる教えバガヴァッドギーターによって 知識…
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