マハーバーラタ/5-10.希望を託されたクリシュナ

5-10.希望を託されたクリシュナ

サンジャヤが出発した後、自らハスティナープラへ行くことを提案したクリシュナと共に会議が行われた。
ユディシュティラが話し始めた。
「クリシュナ。決断すべき時が来てしまいました。
私はあなたに全てを委ねます。
伯父ドゥリタラーシュトラの伝言は、最初のうちはとても丁寧な言葉でしたが、最後は我慢ならないものでした。あの王は何が正しくて何が間違っているのか全く分かっていません。
息子への愛情によって曇った彼の知性は真実に直面することを拒んでいるのです。全ての出来事を知っていながら、私に罪があるとまで言っています。彼の貪欲はもう治らないでしょう。
私達兄弟に対して父親として振舞うのではなく、泥棒のように振舞っています。これほど酷いことが他にあるでしょうか。
私は戦争をしたいのではありません。クシャットリヤに生まれたことを残念に思います。私が戦うことを思いとどまるなら、汚名を得るでしょう。
憎しみ合うクシャットリヤの間に平和は不可能なのです。
しかし、クリシュナ。
私はそれでも不可能に挑戦しようと考えています。
あなたの旅が私とドゥルヨーダナの友情という不可能な夢を達成してくれることを望んでいます。あなたならそれを可能にしてくれると期待しています」

クリシュナは言った。
「ユディシュティラ、私は必ず最善を尽くします。
もし戦争を避けられたなら、世界を破滅から守るという喜びを私は得るでしょう。
世界中の全ての王達にかけられた死の花輪から解放できるよう努力します」

「ですが、心配事があります。
あなたを彼らの元に送ったなら、ドゥルヨーダナがあなたを傷付けようとするのではないかと心配しています。彼はそんな人です。
あなたを失ったなら私は生きていけません」

クリシュナは笑顔を返した。
「そうですね。ドゥルヨーダナは私を傷付けようとするでしょう。
そうなった場合にどうなるか私は分かっています。
戦争を待つことなく、その場で私が彼らを全員殺すだけです。
わが身の心配は無用です。
それよりも心配なのは、使者としての仕事が実りなく終わることです。
そしてあなたの態度が気がかりです。
サンジャヤの言葉を聞いた後でさえあなたは彼らと友好的であろうとしている。あなたは寛大すぎる。必要以上の情け深さはクシャットリヤにはふさわしくありません。
クシャットリヤというのは戦いや死を恐れないものです。
彼らを親戚として考えてはなりません。
クシャットリヤが持つべきは友人か敵かのどちらかだけです。
王の辞書には3つめのカテゴリーはないのです。
サイコロゲームの後にドラウパディーがドゥッシャーサナによって侮辱された時、カウラヴァの宮廷の誰もがその罰当たりな行為を止めなかった。そんな彼らへの愛をまだ持っているなんて理解できません。
まだあなたは彼らのことを尊敬に値する親戚や年長者として考えているのですか?
あの時ドラウパディーが発言した通り、あの宮廷には正しい年長者もいなければ、真実もありません。罪の巣窟です。
私達がそれを破壊すべき時がやってきているのです。
あなたの祖父は今やまともではありません。そして彼こそがあなたが最初に戦うべき相手となるのです。いつまでこの筋違いな愛情に苦しみ続けるつもりですか? クルの名はただの名前でしかありません。
毒の木を根絶やしにするように、あの軍全体を絶滅させなければなりません。ハスティナープラは毒蛇の巣なのです。
きっとあなたとドゥルヨーダナとの間に平和は訪れないでしょう。私には分かります。
私はハスティナープラにいる国民や王達、ドゥルヨーダナに味方しようとしている者達に真実を説明します。
彼らが戦おうとしているユディシュティラがどれほどまでに高貴で徳の高い人物であるかを説いてきます。
最善を尽くしますが、おそらくドゥルヨーダナは王国を手放さないでしょう。
ですから、ユディシュティラ、聞いてください。
私がハスティナープラへ行っている間、戦争の準備をしてください。
私が帰った時が戦争の始まりの時です」

ビーマが言った。
「クリシュナ、もしあなたが私達の間に平和をもたらしてくれるなら、私は幸せだ。
私はドゥルヨーダナのことをよく知っている。高慢でとても横柄だ。
なのであの頑固さを変える為には、彼を怒らせないように丁寧な言葉を使い、我が軍の力を示して脅すべきではない。
私は兄の意見に賛成する。
どうか戦争を避けるように納得させてきてくれ。きっとアルジュナも同じ意見だろう」

しばらく沈黙が流れた後、突然クリシュナが笑い出した。
「あなたは本当にビーマですか?
昨日まではあれほどまで戦争を期待し、ドゥリタラーシュトラの息子達を全員殺すことを楽しみにしていたのに。この13年間ずっと平穏に眠れなかったあなたが?
我慢ばかりする兄に憤っていたビーマはどこへ?
ぶつけようのない怒りの拳を振り上げ、一人で木々を引っこ抜き、突然ドゥルヨーダナへの怒りを叫び、鎚矛を空中で振り回していたあなたが今は平和を欲しがっている。
目の前に戦争が迫ってきて弱気になったのですか?
あなたの考えは曇ってしまったようだ。これではパーンダヴァ達の乗る船はあなたと一緒に沈んでしまう。
あなたを襲っているその臆病を見ると、残念でならないよ」

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