短歌 25首連作『ある週末』(第3回U-25短歌選手権応募作改作)
ある週末/白川侑
空からは腕を引かれてあいさつがしたくなる朝、リモネンの朝
新作のスニーカー履いて作用反作用が小さくなった惑星
口紅の味が好きです生活の味がするから火になれるから
点滅を見送り立ち止まる私、駆けてく昨日までの私
素肌まで晒したみたい透明のケースに隠そうとした執心
本来はガソスタだった建物にコンビニのコスプレが似合ってない
肌を焼く日差し 鼻腔が思い出すシーブリーズと地べたの香り
吊り革がゆれる(あいつを風鈴とするならここも縁側だろう)
許すこともせず分かることなどなくてカタカナのトに見える足組み
半袖の私、長袖のバンドマン、タンクトップのボディビルダー
抵抗をされることなどないとして涼むためだけの百貨店
カレー屋のカレー屋によるカレー屋のためのカレーと真昼の自由
伸ばされた〈速度落せ〉を一歩ずつ跳ねて渡って天使になって
アルバムに残さなかった(全然違う)あの子の笑顔みたいなローソン
寝転んだままであの子が挽いてくれた珈琲の方が苦かった
虹色のドンキ・ホーテでアイテムを手に入れ逆走していく子ども
肉を焼く前から焦げた網止めることは保たせることだと知らず
風船のようだと言われ外見は内面の鏡という証左
グラスには切れた氷と蒸留酒と正しさだけが飾られている
ハンカチを忘れて髪を濡らすとき診察券番号のコール
雨だからそのまま打たれて少しだけ自傷行為の真似事をした
工事場のでかい電光表示機がパチンコくらいびかびか光る
常温で保管していたサリンジャーの腐敗することのない毒性
冷蔵庫にはほうじ茶を常備する私のことを好きでいられる
スクリーンにある週末のエンドロールが映って途中退席はせず
※応募時からかなり大幅に改作しました。
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