2024年8月の読書メモ
その月に読んだ本の中から何冊か選んで、ざっくりとした感想を書いてみます。読んだときに思ったことを忘れないようにすることが目的なので、ほんとうにざっくりです。たくさん選ぶ月もあれば、一冊だけの月もあるかもしれません。毎月一冊は感想を書けるようにしたいとは思っています。
小原晩『これが生活なのかしらん』
小原晩さんのエッセイ。前に読んだ『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』もよかったが、本書もかなり好きだ。小原晩さんへの憧れは別のnoteで書いているので、もし気になった方は読んでみてほしい。
小原晩さんは、読み応えのある生活が前提にあるうえに、その生活の切り取り方もうまい。そのうえ文章にも個性があって、参ってしまう。ひらがなの多いまるい文章。そのまま書くとトゲだらけになりそうなエピソードでも、その当事者そのままの勢いで書くのではなく、離れたところからポップな描写で届けてくれるからすごい。ぜんぜん違うけど、ピクサー映画に近い部分があるような気がする。ぜんぜん違うけど。
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』は自費出版なので手に入れるのは少し難しいが、本書は書店でもAmazonでも買えるので、知人に本のおすすめを聞かれた時は迷わず勧めるようにしている。
近藤銀河『フェミニスト、ゲームやってる』
フェミニズムについて書かれた本を、はじめて読んでみた。おもしろい体験になったと思う。
本書は、フェミニストでありセクシャルマイノリティでもある作者が、さまざまなゲームを紹介しながらフェミニズム・クィアの観点で解説していく内容となっている。ゲームとフェミニズム・クィアとの結びつきについての考え方は興味深い。ゲームをプレイするという行為は映画を観るのとは違って自らキャラクターを動かす能動的なものであり、それでいてゲームの規範に従わなくてはならない受動性を持つ。そこでは現実とは違う身体・精神を持ち、違う視点で、違う規範の世界で生きることができる。またゲームを作るというのは一つの世界の規範を作ることでもあり、プレイヤーにその規範を押し付けることになる。
私は、自分とは違うジェンダーや違うマイノリティに対して寛容であると思っていたし、差別的な振る舞いはしてきていないと思っていた。しかし本書を読む中で、自分では想像もしえなかった部分で差別を感じている人がいたり、仮に直接は差別的な扱いに晒されていなくても、映画やその他フィクションに共感できるものが少ないことの苦しさがあると知った。特にフィクションについて、私は自分の人生と離れいている人の話の方がおもしろいと思っていた。が、それでもたいていの主人公はシスヘテロなので、根本的な違和感はなく受け入れることができている。マイノリティ当事者は、こういった部分でも居場所のなさを感じてしまうのかもしれない。本書を通して自分にはなかった視点を借りることができたが、紹介されていたゲームをプレイすることで、より深い理解ができるかもしれない。
左右社『海のうた』
海についての短歌を100首集めた、短歌アンソロジー。好きな歌人の歌もたくさんシュロくされているので、書店で見つけて購入してみた。
アンソロジーの歌集を読むのははじめてだったが、個人の出す歌集とはまた違うおもしろさがあった。「海」というテーマに対して、100通りの切り口があることのおもしろさ。私が「海」をテーマにと言われて思いつく切り口が10個あるとして、あと90も自分の頭にはない発想を覗き見ることができる。
こういう歌集は、短歌を勧めるのにちょうどいいと思った。いろんな作風の短歌を一気に読むことができるし、きっと一首は琴線に触れる歌に出会えると思う。個人の歌集だと、それがどれだけ素晴らしい歌集でも、ハマらない人はとことんハマらないということもありえる。
背筋『近畿地方のある場所について』
私は、ホラーが苦手だ。にも関わらず、仕事でホラーに携わることがある。ずっと避けてはいられないと思い、本書を手に取ってみた。
とにかく怖かった。夜、トイレに行けなくなるくらい怖かった。本書はテレビなどでも注目されている「モキュメンタリー」に分類される作品だと思うが、ホラー映画を観た後のなんとなく恐怖を引きずる感じとはまた違って、明確に現実に怪異が迫ってきていることへの不安をおぼえた。その読後感は独特で、今までのファンタジーホラーに物足りなさを感じているようなホラー好きがハマるのもよくわかる。私はもうお腹いっぱいだけど。
また本書はただ怖いだけでなく、考察のしがいがあるストーリーになっている。雑誌記者とライターが実在する怪異について取材していく内容なのだが、過去の記事やネット情報、関係者へのインタビューを通して少しずつ真相に近づきつつも明らかになりきらない感じは、ミステリー的なおもしろさもあるような気もする。
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