アフガニスタン・ペーパーズ
本書はワシントン・ポストの調査報道記者で2001年以来、外国特派員、国防総省記者、安全保障の専門家として、ピューリツアー賞のファイナンスの3回選ばれている。
本書のタイトルからして多く人が察するのがベトナム戦争時にベトナム戦争の真実について国防総省がまとめた機密文書であるペンタゴン・ペーパーズだろう。ただペンタゴン・ペーパーズが機密文書をすっぱ抜いたものであるのに対して、本書は2016年にアフガニスタン復興特別監察官(SIGAR)事務所が関係者数百人に実施したインタビュー記録「学ばれた教訓」という刊行された報告書を基にしている。
アフガニスタンに関する報道について覚えていることとしては最初の戦争開始から戦争終結宣言、新大統領選出、ビンラディンの殺害、そして最後のタリバン復活くらいである。タリバン復活のニュースには唐突に感じたがそれが必然であったと、本書を読めば理解できるであろう。
要点としては①戦略の失敗と②現地への理解不足である。とくに①での失敗を②が増幅させていると感じた。①の戦略の失敗とはタリバンとアルカイダを同一視したことである。タリバンはあくまでアフガニスタンという地域の政権であり、国際的な反米テロ組織であるアルカイダとは一致した動機や利害を持っているわけではない。にもかかわらずアルカイダに加えてタリバンも戦略目標したことが大きな誤りであったとしている。①でタリバンを目標にするということはタリバンにかわって新しい政府を作る必要があり、そのための政策の実施が②の失敗へのつながっていく。戦略的な失敗を戦術的な努力で取り戻すことがいかに難しいか(ほぼ不可能であるか)がよくわかる事例だと思った。
本書で気になったことが2つある。1つはこの戦争をはじめから指導していたラムズフェルド長官は薄々問題点に気づいていたことである。なぜわかっていながら戦略修正できなかったのか、本書ではアメリカ政府が国民に対してアフガニスタンでの成果を誇張、ときには嘘を言っていることを指摘しているがその背景には(本書の射程外でもあるため)迫っていない。なぜ嘘をつく必要があったのか、政治的に変更不可だったのか、自己の面子のためなのか、不思議に感じた。
もう1つは本書はバイデン政権の初期までを描いているがブッシュ政権とオバマ政権で9割5分を占める。その中でトランプ大統領がタリバンと対面で交渉するよう指示したと記載してあるところがある。①の失敗を取り戻すにはタリバンを戦略目標から外さなければならず、それはタリバンと妥協することを意味するが、なぜトランプ大統領からそのような指示が出たのか、自身が気づいたのか、気づいた側近からの助言があったのか、その辺をもっと掘り下げてほしいと思った。
今また世界では2つの大きな戦争が進行中であるが、戦略目標は一体何なのか、どうしても技術的な細かい、言い方を変えれば正解が見つけやすい、問題に注視してしまいがちであるが、もっと大きな視点で、戦略や地政学というよりも大局的常識的な視点で、ものごとをみることがいかに大事なのかがわかる本だと思った。
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