共産党宣言
【概要】
著者は誰もが名前は聞いたことのある歴史上の人物の一人であるカール・マルクスと友人のフリードリヒ・エンゲルス。2人ともドイツ人であるが同郷というわけではなく、26歳くらいの時にエンゲルスが書いた論文をマルクスが読んで感銘を受けてからの付き合い。本書自体は1848年に発表された。その後マルクスは1883年に、エンゲルスは1895年に亡くなっているので人生の中盤くらいの作品。マルクスのほうが年上。
カール・マルクス
今回読んだのは2010年に的場昭弘さんが新訳として出版したもの。おそらく岩波文庫のもののほうが有名だと思うが、新訳には逐条的な解説や背景となる資料もたくさんついているのでより深い理解をしたい方にはオススメだと思う。ただ岩波文庫のほうは新訳より安くてそれなりの規模の書店なら手に入ると思う。
本書は学校の歴史の教科書などにも紹介されるような名著で、引用した冒頭の部分はとくに有名な一句だと思う。教科書で読んだときは亡霊の意味がよくわからなかったが新訳は解説がついているのでよくわかった。(実体はないが、現実の存在のように影響を持っているということの比喩らしい。マルクスの好きなシェイクスピアのハムレットにインスパイアされてのこと)
【全体の感想】
本書を社会主義や共産主義の理論を理解するものとしてはあまりオススメしない。もともと政治的なパンフレットなので非常に簡素に書かれている。内容はとにかくブルジョワ的なものを廃止してアソシアシオン的なものを打ち立てようというもの。ブルジョワ的って?アソシアシオンって?と。なんとなくわかる気はするが・・。
本書ではないが岩波文庫の訳者は「読むたびにあらたな感銘を覚える」としている。ただ掲載されている政策は輸送手段の国有化や国立工場、計画経済など古ぼけたものが多いので、読んでも「感銘」は受けないと思う。ただ読んでいて2つ面白いと思ったことがあった。①冒頭の共産主義という亡霊について、②共産党宣言本文ではないが添付資料のエンゲルスが書いた「共産主義の原理」の問20の「私的所有が廃止された結果どうなるのか」である。
【面白かった点】
①について、それ自体実体はないのに影響力があるものとして存在している亡霊とは、現代の様々な政治的スローガンについていえるかもしれないと思った。現代の左派的運動が貧困問題から環境、ジェンダーに移り、それらがまさしく亡霊にように実体がない、正確にいえばこういう集団は政策を推進する力はないが彼らの政治的スローガンは現実に影響力を行使している、状況もうまく表現しているように感じた。現代においても先祖の遺伝子が受け継がれているように思えた。
②について、私的生産では分業により人間は1つ部門のみ知っていることを強制されるが「共同経営される工業では生産の全システムを監視することができる全人的な人間を前提」とするとある。これは半分は予言としてあたっているように感じた。現代も専門性の向上だけでなく副業や自分の専門以外の分野の知識も必要とされるし、生産全システムを監視する全人間的な人間は、今風に考えれば監視をIoTが担い、IoT取得する様々なデータの分析を全般的な常識を持つ人間(ないと偶然の除去や因果関係の判断ができない)が行うことを予言していたのかと思った。
そういう意味では古ぼけたものであることは間違いないが、感銘をうけないまでも意外と現代に通じるところもあるし、先見の明があると驚く部分もある。(なのでオススメかも!)
【その他】
1つ気になったのはどうやって共産主義が実現するとマルクスが考えていたのかである。政治的パンフレットなので当然政治的な手法についても想定はあるように思う。自分はてっきり革命みたいな武力による権力奪取を想定しているのかと思っていたが「労働者階級は、国家機構を、ただもとのまま手に入れ、それを自らのために利用することなどできない」とマルクス自身が認識しているとはっきり書いているので驚いた。じゃあ選挙なのか、資本論だとある一点に到達すると「資本主義的私有財産の最後を告げる鐘が鳴る」とあるので政権与党として野党と対決し、時には下野しながら、徐々に法律改正というわけではないような。ヒトラー政権みたいに選挙→準備期間→独裁なのか?まぁマルクスは学者なので科学的な分析にこだわりすぎると科学みたいに一定条件下で一定の結果が発生するみたいな分析になっているのかなと思う。
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