SF読みがガンで舌を切ることになった件 その2
はじめに(ご注意)
このお話はSF好きが舌がん(ステージ1暫定)の体験をお気楽に綴るエッセイです。医学は素人。モットーは「SFも病もお気楽に。人生をやり過ごすにはそれが大事」です。
大学病院、検査編。まるでRPGゲームのミッション!?
さて、Drの告知から遡ること約2週間前。
大学病院の診察室で日帰り手術をすると思い込んでいた私は「入院して手術しないとだめ」「手術のための検査を色々する」と聞き、今日は「生検」などの検査を受けるだけ「入院は絶対」というショックのままに主治医のDrの診察室を後にして、処置室へ向かった。
舌に注射で麻酔して、膨れてきた口内炎らしきものをちょぴっと切り取る、というものだと主治医とは別の研修医が別室で説明した。
ちなみに別室は複数の研修医の机が隣り合わせになっていて、隣の患者さんとの背中合わせで話を聞くような、狭い場所……。隣で別の患者に説明している別の研修医のPC横には人魚のコーヒー。処置後に何か食べられるか私の担当研修医に尋ねたところ、「しみるし痛いから食べられないと思うので、ストローでフラペチーノくらいなら啜れると思うのでオススメします」と教えてくださった。どうやら、研修医の先生方は人魚のコーヒーお好きのようである。
余談はさておき、私の担当になったDrはこれから受ける検査のミッションを丁寧に説明してくださった。タイプじゃないが、イケメンの先生だ。素人の質問にも丁寧に答える姿勢には好感が持てたのだが……。
処置用の椅子に座り、研修医のためか、ご自分で器具も麻酔薬も準備し始める先生。私の胸もドキドキし始める。イケメンだからじゃない。見るからにあっち行ったり、こっち行ったり、処置のための準備の悪さに、研修医の腕に不安を感じたのだ。恋じゃない。コイはコイでもまな板の上の鯉である。本気で怖くなってきた。
そして先生がおっしゃった。
「じゃあ、今から麻酔するので、自分の舌をこのガーゼで持って固定してください」
(自分で、自分の舌を持つ? ??????)
頭が真っ白になる。しかし、処置室には既にカーテンが敷かれ、看護師さんの姿はない、二人だけの軽い密室だ。もちろんカーテンの向こうには、気だるげにPCを見て、ぼーっとしている他の研修医の先生がいたのだが…。
後に冷静に考えればおかしいし、人によっては医療安全とかに言いたくなるのかもしれないが、色々とテンパっていたので、「麻酔の注射を舌に受けるときは患者自ら舌を持つものだ」と思い込んだ。ちなみに舌を持つと言っても、舌の裏側を打ちやすいよう、引っ張って、ひっくり返し、反対側に寄せて固定するテクニックがいる。
「おかしくないか?」と心の端で思いながら、したがった。「舌」だけに。
しかし、それだけでは終わらなかった。
「先生、さすがに無理です」
今思い返してもホラーだ。最近読んだ、背筋の『口の中のアンケート』よりも怖かった。
自分で舌を引っ張り出しているところへ、注射器が迫ってくる。
しかも研修医が「ちょっと痛いですよ。でも絶対動かないで」と言う。
余計に怖いじゃないか。
それでも私は従順に従った。虫歯の治療で針を歯茎に刺したことを思い出して冷静さを装う。ちなみに私が舌を持ちながら当時必死に考えていたことは……。
『チクっとチクっと……そんなタイトルのSFがあったな。そうだチクタクだ。チクタクチクタク何回チクタクだっけ?』
である。ちなみにジョン・スラディック『チクタク』は途中で積読になっていた)。針を舌にブスッとされる間、チクタクと呪文を唱えつつ(チクタクよりはマシとも思いつつ)SF読み的(?)現実逃避で乗り切った。
ちなみに『口の中のアンケート』は痛くないホラーだし、『チクタク』を思えば、まだ耐えられた。私の精神面を支えた本はこちら。
先生は麻酔が効いてきたあとで「じゃあ、そのまま掴んでいてください」とおっしゃり、先がハサミ状になっている器具を取り出した。「3回取りますから。絶対動かさないで」
「先生!私はマゾじゃありません!」
とカミングアウトしたわけじゃないが、麻酔が効いているとはいえ患者が持っている舌を切り取ろうとした先生は患者の私に処置の上での全幅の信頼を置いているのだろうか? と、ポジティブに考えてみたけれども、やはり精神的に無理ゲーだ。「ちょっと待ってください!」と言った。
S気のある(?)研修医との紆余曲折の交渉の末、たまたま通りがかった看護師さんに、研修医の先生がお願いし、看護師さんというプロに舌を持ってもらい無事に生検を終えた。
とはいえ、止血のためのガーゼを咥えたまま、痛みより怖さで涙を目尻に浮かべる。これはやはりS疑惑のある研修医が「痛いですよ」と言いながら鋏を動かし、途中で器具を変えに行き、さらにまた「痛いですよ」と言って3回私の舌を切ったからである。本気で怖かった。
だが、それに気づいてティッシュで拭きっとった看護師さんは天使だった。看護師さんが立ち去る間際。舌切り雀状態で声の出せないため、手を合わせて看護師さんを三度拝んだ。
やはり、看護師あってこその医療だ。
「漏れてる!?」造影剤を入れた、CT検査
その後、長い時間待って血液検査を終え、麻酔が切れて痛み出したので、鎮痛剤を処方してもらうために再度処置した研修医のもとへ戻ったりして、院内では処方できないから、外へ取りに行けと言われ、処方箋を家族に託してなんとか、痛みと戦いつつ肺の検査や心電図を取り、痛み止めを飲んで、CT検査室までたどり着く。
造影剤を注射しながらのCT検査のため、色々とリスクを説明される。まれにアレルギー反応が起きるとか何とか。CT室へ行ってベテランの看護師さんが確認しつつ再度、造影剤が入った時の感覚を教えてくれた。
「お薬が入ってくると漏れた感じがするけど、大丈夫だからね。あと、喉が熱くなってくるのも大丈夫。ただ、イガイガしてきたり、呼吸が苦しくなったら手を上げて、合図して」
CT室は基本的に撮影中は人は入れない。ということで、立ち去る。
「お薬入りまーす」
股の間が熱くなることより、喉がじんわり熱くなることの方が気になった。
これが喉のイガイガ(副作用)なのか、単に喉が熱くなっている正常な反応なのか、初体験なので判断がつかず不安だったからだ。呼吸困難になったらそもそも声を出せる状態じゃないはずだからだ。
バンザイしている指先が一層、冷たくなり、耐えきれず声を出す。
異変を察知した看護師さんが入ってきて私の指先が冷えているのに気付き、「緊張しているわね。大丈夫よ。呼吸が苦しくなければ平気だから」と手を握ってくれるという「癒しの手」がなければ、精神崩壊していた気がする。
結局、CTは無事に撮影を終え、ようやく私は今日のミッションから解放されたのだ。最後にCT室を後にするとき私の顔色を見てベテラン看護師さんは「ゆっくり服を着替えていいからね」とか「手が冷たいの戻った?」とMPほぼゼロの私にリカバリーの魔法をかけてくれた。
しかし術前のための検査はまだ終わらない。まるでRPGゲームのミッションのように、一つ一つクリアしなければならない。
次回、検査は続くよどこまでも。院内ミッションを終え予約がいっぱいだったため、別日に指定されたMRI検査編。乞うご期待。
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