見出し画像

舌がんで初入院。入院で役立った物の紹介と不安を乗り切るコツ 後編(SF好きが舌がんになった件 その7)

舌がんで、手術と1週間の入院になったお気楽なエッセイです。
前編はこちらをお読みください。


術後二日目に待っていた、鼻管栄養……しんどい

(手術したら回復のために栄養が必要。わかってるけど、点滴だけで済ませたかったよ……)

 50センチくらいの長さの細い管を鼻から差し込まれ、若干えづきながらなんとか胃のなかへ留置した処置を受けながら頭の中でそう考えていました。

 鼻はまだしも、特に喉! 喉の裏側に魚の骨でも刺さっているような異物感! そして白湯とか栄養剤を入れられた時にツーっとすぎる冷たい感じ。

 唾液をゴックンすると喉の中に通っている管に当たり、痛いというか違和感が半端ないし、寝返りを打つだけで管が喉で移動しているのがわかり、本当に3日目くらいまで慣れませんでした。

 正直舌を切除したあとは、ネオベールという人工シートを貼ってあるので、出血もそれほどなく、痛みも痛み止めで押さえられるほどでした。

 鏡で恐々と傷口を見ると舌の裏半分はドラーグ人。あのフランスのアニメ映画『ファンタスティック・プラネット』の宇宙人の肌みたいな色をしています。

 ファンタスティック・プラネットは絵面がすごく、シュールで面白い作品ですよ? (ちなみに、私のアイフォンのタイマー音クラシック「SF」がこのドラーグ人が瞑想する時の音そっくりなのです)

 そんなことで、術後5日目までのしんどさは、痛みよりも鼻から入れられた管の違和感との戦いでした。そうしたそれに1キロカロリー1mlの高濃度栄養剤が、400mlから600mlへと増えるとき、逆流のような、軽い吐き気があったのもしんどかったです。(管が喉に押し込まれた状態でムカムカするって本当に嫌な感覚でした)

 吐き気を予防するために、栄養剤を鼻から入れている間座った姿勢ですが、本を読もうと顔を下げると喉に管が当たり違和感が半端ないので、本を視線の先に持ち上げて読んだり、喉の違和感を紛らわすためにHuluで映像作品を観て過ごしました。

 鼻から吐き気予防でゆっくり落としていくので大体400ml落とすのに1時間半から2時間ぐらいかかっていました。

気晴らしになった映画の感想

 気晴らしに観た作品では「her/世界でひとつの彼女」と「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」が面白かったので、紹介します。

her/世界でひとつの彼女

 某検索のサジェストではなぜか「気持ち悪い」という言葉が続いているのですが、AIとの恋愛を描いている、という噂を聞き、前から観たかった作品です。
 鑑賞した感想としては、離婚のショックで落ち込んでいる主人公セオドアとOSサマンサ(彼女は人工知能)の恋物語のようにも見えますが、私は外に向けた愛の物語よりも、自己愛再生の物語だよな、でした。

 そう感じたからか、終始、物悲しいような虚しいような、そんなテイストを感じる内容でした。最愛の理解者であるはずのサマンサですら、セオドアの嗜好や心地よさから産まれた彼の望む、希望的な彼の残像です。関係を深める中で、サマンサはセオドアの思考も学習してやや暴走気味に元妻との関係に嫉妬したり、セオドアと肉体的繋がりを望みます。
 さらには、二人の関係に憧れ無償の愛を提供したいと願う女性を探し出し、彼女を媒介に仮想の肉体を獲得しようと試みます。

「気持ち悪い」のサジェッションが出てきた時、ある意味で納得したのはこの辺りでした。ですが、そういう媒介者を通した肉体的接触がセオドアの潜在的望みではない、ことがセオドアの躊躇いとして、描かれていて(なんとか踏みとどまる理性が彼にあって本当に良かったです)好感が持てました。
 と同時に彼が感じる絶対的孤独と、肉体関係がなくとも愛情は育めるもという信念を感じました。 しかしながら結局彼自身が理解したように、どこまで行ってもOSとの恋は、ただ一つの「他者」にはなり得ない、という物悲しさ、虚しさを感じました。

 私自身はオチがSF的に物足りなかったです。予測できるオチに収まったからなのかもしれません。もう少し意外な結末を見てみたかったので、残念でした。その一方で、彼がより理性的に自分自身の身勝手さに気づき、成長する物語だったところには、彼自身に対する救いを感じられて良かったです。
 そうした意味でサマンサは彼を「変えた」のかもしれません。

MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

 矛盾を指摘しだすとツッコミは色々とあるので、コメディとして楽しんだ映画です。(私は個人的になぜあの人が1番目にループに気づいたのかをもう少し深掘りして欲しかったです)
 あらすじは、月曜日、鳩が窓に激突するところから広告会社の一室で繰り返される一週間。そこから抜け出すには、下から上に上申し、最終的に部長に信じ込ませないといけない……という突拍子もないようで真面目にことを運ぼうと苦心するコメディタッチのストーリーが面白かったです。

 まず、「上申」。部下が直属の上司に相談するあれですよね。徐々に下から上げていかないと、(一人でも飛ばすと)信じてもらえない、ってなんだか会社の仕組みを皮肉っているようで笑っちゃいました。
 そして段々と上司に近づくにつれて、タイムリープしていることを証明するために、プレゼンまで始める部下たち。部下の服装が段々と本格化するなど、回を重ねる毎に気合が、必死になるところが凝ってるな、と思いました。

 そして後半は自分の成功だけを考える主人公が立ち止まり進路を省みるヒューマンドラマだったのが、やや強引な印象ながらも、良かったです。
 集団タイムリープものを他に知らなかったので新鮮な感じで楽しめました。

 とまぁ映画の感想が長くなってしまいましたが、こんな風に映像作品に没頭するのは、痛みや違和感を和らげるのに、最適でした。
 そして徐々に口からの摂取も始まりました。

痛くてかめん!!

 最初は一口大より少し小さめの刻みと全粥からスタートしました。全粥は食べられましたが、おかずは痛いし、傷が開きそうで怖いし噛めない。幸い、喉に鼻管の違和感はありつつも飲み込みができたので、栄養士さんにお願いしてペースト状態の食事形態にして頂き、頑張ってひと匙ずつ完食するようにしました。

 だって、食べられないと管が抜けない。管は寝ている間も24時間入れっぱなし、三日目ぐらいでようやく慣れてきましたが、やっぱり早く抜いて欲しかったのです。

 ペースト状態は食べやすいですが、水分量が増えます。ひと匙ずつしか食べられないので普段の2倍以上の1時間半くらいかけて食べてました。
 それに食後は水分でお腹いっぱい。でも消化は良いのでお腹はすぐに空きます。鼻に管が刺さった状態で、リハビリがてら売店まで歩き、プリンやヨーグルトをおやつに食べたりしました。

 美味しいことに感謝しつつも、まだでっかい口内炎がある感じです。痛くないように、ちょびちょび食べる不便さを感じる時間でした。

管が抜けた!

 食事開始3日目の朝、退院の前日にようやく鼻管栄養の管を抜いて頂き、点滴も取れて幸せな気持ちに。とはいえ、傷口は順調で、ネオベールも剥がれず、出血もほぼなく退院することができたのでしたが………。回診にきた先生が不吉なことを言って立ち去りました。

 「まぁ、ネオベールは剥がれてくるし、間違いなくこれから痛くなるから。痛み止め出しておくので、それで頑張って」

 (ええっ! 退院するのにこれから痛くなるの!?)

 先生の予言(予告)はこの後みごと大当たりするのですが、まだこの時は大丈夫だろうと、安気に構えていたのでした……。

 次回退院からが治療の本番!?  痛みと食事の工夫編です。乞うご期待。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集