冷徹さが求められる中で信念とせめぎ合う銀行家の張り裂けそうな苦悩を丁寧に表現する松下洸平、向上心と焦燥感を体現し続ける松下優也、世界初演は没入感のある斬新なミュージカルに…★劇評★【ミュージカル=ケイン&アベル(2025)】
運命や宿命というものに人はそうやすやすとは気付かない。なぜなら、人はその時々を懸命に生きて、前へ前へ、上へ上へと進む歩みを続けているからだ。しかし、未曽有の好景気と世界に影響が広がった大恐慌を短い期間のうちに連続して経験した当時の米国の経済人にとっては、自らがどんな宿命を背負い、どんな運命に立たされているのかを、嫌というほど考えさせられたに違いない。特に米国では、その前にも後にも「アメリカンドリーム」という、つかみどころのない、しかし確実に心を揺さぶる無限の大地が広がっていたために、その変転は例えようもなくドラマチックだ。富裕と貧困、約束された人生からのスタートと底辺からのたたき上げという対立軸の中で、互いの人生を絡み合わせた2人の男たちを描いた英国の大河小説が原作のミュージカル「ケイン&アベル」の世界初演公演がついに開幕した。日本の東宝と、フランク・ワイルドホーンら世界の第一線のクリエイターによるコラボレーションによって実現した世界初のミュージカル化。冷徹さが何よりも要求される銀行家という仕事と、社会や世の中の人を支えることこそ使命であるという信念とのせめぎあいの中で、ウィリアム・ケインの張り裂けそうな苦悩を表現する松下洸平の演技は妥協を一切排除して丁寧に組み上げられ、観客を一時(いっとき)も離さない。数々のミュージカルで演技の幅と深みを磨いてきた松下優也が向上心と焦燥感の入り混じったアベルをこれ以上ない切迫感で演じるパフォーマンスと相まって、没入感のある斬新なミュージカルとなっている。山口祐一郎や益岡徹という演劇界の屋台骨を支える実力派の堅実な演技や、咲妃みゆ、知念里奈、愛加あゆといった女優陣の歌唱力を武器とした飛び抜けた表現の巧みさもあって、今後の世界的な飛躍を予感させる魅力あふれる作品に仕上がっていた。(見出し画像はこの劇評記事とは無関係です。noteに集うクリエイターの方のご好意で作品のイメージに合う画像として使わせていただいています)
ミュージカル「ケイン&アベル」は2025年1月22日~2月16日に東京・渋谷の東急シアターオーブで、2月23日~3月2日に大阪市の新歌舞伎座で上演される。
★序文はエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも無料でお読みいただけます。舞台写真はブログにのみ掲載します
★無料のブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含めた劇評の全体像は通常はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(300円)公開しています。なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。松下洸平さん、松下優也さん、咲妃みゆさん、知念里奈さん、愛加あゆさん、益岡徹さん、山口祐一郎さん、上川一哉さん、植原卓也さん、竹内將人さん、今拓哉さんら俳優陣の演技や身体表現に対する評価、演出や舞台表現についての評価などが掲載されています。場合によっては、特定のスタッフワークについて言及することもあります
【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無条件に無料でお読みいただけるサービスは原則として2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。2018年4月7日以前に投稿した劇評も順次有料化してまいります。ご容赦ください。
★ミュージカル「ケイン&アベル」公演情報
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?