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役に多彩な味付けを施しながら自分を投影していく自由な発想が見て取れ、この作品の世界観を大いに広げている…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(笹本玲奈・昆夏美・田代万里生・上原理生・川口竜也出演回)(2021)】

 「パンがないなら、ケーキを食べればいいじゃない」。フランス革命の当時に立憲君主制に対峙し抵抗していた立場の人たちが、マリー・アントワネットの放った言葉だという噂を広めたために、長らく彼女の傲慢さを表す言葉だと受け取られてきたこの言葉は、ルソーの小説の中にその起源があるものの、オーストリアでまだ幼かったマリーが知り得た言葉ではなく、実際にフランスで起きたパン不足の際にはマリーは飢餓に苦しむ人々にもっと寄り添った言葉をかけている。このためこの言葉は現代では、マリーではなく、その周辺が言ったか、反対派が誇張したか捏造したかだとの認識が一般的だ。日本で再々演が行われているミュージカル「マリー・アントワネット」はこの言葉をマリーではなく、舞踏会に集まった別の女性に言わせている。ことほどさようにこの作品は、ぜいたくな暮らしを送ることに明け暮れていた王家を民衆が打ち倒したという単純な構造で描いていない。民衆側にも多くの欺瞞や矛盾が存在し、一方のマリーは高慢なセレブリティーであると同時に心根の優しい母であり女であるという観点もきちんと入れ込んでいる。遠藤周作の小説を下敷きにしており、その原作があるにはしても、こうしたバランスの取れた繊細な視点は作品を豊かなものにしていると言えるだろう。ダブルキャストが多く、さまざまな組み合わせがあるこの作品。中でも2度目のマリー役の笹本玲奈を筆頭に、昆夏美、田代万里生、上原理生、川口竜也とミュージカル界を屋台骨として背負って立つメンバーが出演する組み合わせでは、役に自分を近づけるというよりは、役に多彩な味付けを施しながら自分を投影していく自由な発想が見て取れ、この作品の世界観を大いに広げている。キャスト同士が刺激し合っている様子も伝わってくる面白い組み合わせだった。(写真はミュージカル「マリー・アントワネット」とは関係ありません。イメージです)
 ミュージカル「マリー・アントワネット」は1月28日~2月21日に東京・渋谷の東急シアターオーブで、3月2~11日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。

阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも読めます。舞台写真は「SEVEN HEARTS」でのみ公開しています。
★「SEVEN HEARTS」のミュージカル「マリー・アントワネット」劇評ページ

★ブログは序文のみ無料で読めます。劇評の続きを含む劇評の全体像はこのサイト「note」で有料公開しています。作品の魅力や前提となる設定の説明。笹本玲奈さん、昆夏美さん、田代万里生さん、上原理生さん、川口竜也さんら俳優陣の演技に対する批評などが満載されています。

 なお、本作は主人公のマリー・アントワネット役と数奇な運命でつながるマルグリット・アルノー役、マリーとの愛を貫くフェルセン伯爵役、大衆を扇動するオルレアン公役、ジャーナリストのジャック・エベール役の5役がダブルキャストであるため、さまざまな組み合わせが組まれていますが、取材機会の関係で劇評を掲載するのは、マリー・アントワネット(笹本玲奈・昆夏美・田代万里生・上原理生・川口竜也出演回)とマリー・アントワネット(花總まり・ソニン・甲斐翔真・小野田龍之介・上山竜治出演回)の2つの組み合わせに限らせていただきます。ご了承ください。
 この組み合わせでカバーできない主要出演者はありませんが、他の組み合わせの劇評を読みたいという読者の方もいらっしゃると思います。しかしながら、超人気公演のため取材機会も限られます。なにとぞご容赦ください。

【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無料でお読みいただけるサービスは2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。

取材できたもう一つの組み合わせの劇評は既に掲載済みです。こちらもあわせてお楽しみください。
★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・ソニン・甲斐翔真・小野田龍之介・上山竜治出演回)(2021)劇評=2021.02.08投稿

★「阪 清和 note」ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・ソニン・甲斐翔真・小野田龍之介・上山竜治出演回)(2021)劇評=2021.02.08投稿

★ミュージカル「マリー・アントワネット」公演情報

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