繊細な歌や演技の表現力はこの作品を単なる歴史絵巻に終わらせず、さらに高い哲学性を秘めたものに昇華させている…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(笹本玲奈・古川雄大・ソニン・佐藤隆紀出演回)(2018)】
歴史の登場人物の中には、善と悪、どちらか一方からの視点のみで描くことが決してできない人物がいる。本来ならどちらか一方から描けば物語の輪郭がはっきりするし、なんといっても人物像が分かりやすい。現代の人々が認識している方で描けば満足度も高いだろう。しかし現代の人々は人間というものがそんなに簡単な二元論で描き出せるなどとは思わなくなってきているし、どんな人の中にも天使と悪魔が棲んでいることにはみんな気付いている。フランスの王妃マリー・アントワネットの場合、やさしく慈愛に満ちた性格だが、夫である王の威を借る傾向が強いし、ぜいたくを何とも思っていない。それこそ善と悪が混濁した状態だ。その上、オーストリア女帝の娘という高貴な育ちのせいか、ぜいたくの度合いを図るものさしをもともと持ち合わせていないし、それが悪だという価値観もない。そして彼女のそんな性格は「利用された」面も多く、ことは相当に複雑なのである。こうした点を、世界にあまたあるマリー・アントワネットの物語の中でもっとも鮮やかに描き出した遠藤周作の小説「王妃マリー・アントワネット」を下敷きにしたミュージカル「マリー・アントワネット」が東京・帝国劇場での2006年の世界初演以来、12年ぶりに日本で再演出版として上演されている。再演というよりも、再びの初演にも近いこの公演には、花總まり、笹本玲奈、昆夏美、ソニン、古川雄大、田代万里生、吉原光夫ら、日本のミュージカル界で実力派として確固たる地位を築くトップ俳優の集結が実現。壮大な歴史ドラマをただ単に「面」として描くのではなく、歴史上の人物から名もなき市民に至るまで個々の心情や感情が織りなす細い糸が互いに絡み合って歴史の大きな幹を作るという、一見当たり前のようでいて、その表現の実現にはとてつもなく困難が伴うアプローチによって描き出さなくてはならないために、実力派の招集は絶対条件だったのだろう。念願のマリー役を手にした笹本は、マリーがずいぶんと高く危ないところで恋や社交にいそしむ不安定さと後半に向けて確かな成長を遂げていく姿を彩り豊かに造型して観客の目を惹きつけ、古川も比類なき貴公子ぶりを全開させている。ソニンの力強さは何物にも代えがたく、繊細な歌や演技の表現力はこの作品を単なる歴史絵巻に終わらせず、さらに高い哲学性を秘めたものに昇華させている。演出はロバート・ヨハンソン。
ミュージカル「マリー・アントワネット」は、10月8日~11月25日に東京・丸の内の帝国劇場で、12月10~24日に名古屋市の御園座で、来年2019年1月1~15日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。これらに先立ち9月14~30日に福岡市の博多座で上演された福岡公演はすべて終了しています。
花總まり・田代万里生・昆夏美・佐藤隆紀出演回についての劇評も既にブログに掲載済みです。併せてお楽しみください。
★阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」「ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・田代万里生・昆夏美・佐藤隆紀出演回)(2018)」劇評=2018.10.20投稿
http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/archives/66294828.html
(ブログでは劇評の序文だけ公開しています。劇評の全体像はこちらのサイト「note」で)
なお、今回のミュージカル「マリー・アントワネット」では、観劇取材できた「花總まり・田代万里生・昆夏美・佐藤隆紀出演回」と「笹本玲奈・古川雄大・ソニン・佐藤隆紀出演回」の2つの組み合わせに分けて劇評を執筆・掲載しましたが、実際の公演では、さまざまな組み合わせで上演されています。公式サイトでは主要な役柄を演じる俳優を選んで公演日を検索することもできます(お望みの組み合わせの回が既に売り切れていたり、残りの公演期間ではその組み合わせがなかったりする場合もございますので、ご注意ください)。
★ミュージカル「マリー・アントワネット」キャストスケジュールページ
★ミュージカル「マリー・アントワネット」公式サイト
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