人間の奥深い可能性まで見せて、明日からもう一度誰かを信じてみようと思わせてくれる…★劇評★【舞台=ナイツ・テイル ―騎士物語―(2018)】
「気高い」という言葉は侵しがたい気品を持っていることを表す言葉だが、現代社会ではなかなかそういう気高さを持った人に出会わないし、その精神は徐々に失われていっていることは間違いないだろう。しかしシェイクスピア最後の作品として知られる「二人の貴公子」を世界で初めて日本でミュージカル化したミュージカル「ナイツ・テイル ―騎士物語―」を観ていると、その言葉の真の意味がよく分かる。どれほど状況が悪くなろうと、自分ではなく相手のことを考えられる精神、そうした精神を持つ人間こそがまさに気高い人間なのである。しかも堂本光一と井上芳雄という日本のミュージカル界の先頭を、互いを意識しながら併走する2人によって演じられるその物語は、高みに立つ者だけが醸し出すことができる研ぎ澄まされた緊張感とともに、2人の柔軟な演技力が表現する喜劇性のおかげですべての観客を包み込むような得がたい幸福感に包まれており、人間の奥深い可能性まで見せて、明日からもう一度誰かを信じてみようと思わせてくれる作品だ。ミュージカル「レ・ミゼラブル」をロンドン初演から手掛け、日本初演以降も数々の作品で日本のファンにもなじみ深いロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)名誉アソシエイト・ディレクター、ジョン・ケアードの卓越した手腕によってこの世界に姿を現した稀有な価値を持った物語は、岸祐二、島田歌穂というベテラン勢の揺るぎない演技と、音月桂、上白石萌音という表現力の豊かさと可能性の大きさを感じさせる女優たちのしなやかな実力、そしてシェイクスピアの戯曲から飛び出してきたような大澄賢也の軽快なダンス、そして芸達者なアンサンブルたちの繊細な表現を得たことで、堂本、井上の2人が灯したともしびをより確かな光へとひろげることに成功している作品と言えよう。今回の公演は世界初演だけに、東京・大阪と続く公演中にもこの舞台は成長を続ける可能性か強く、さらにはウエストエンド、プロードウェイへとはばたく夢さえ見せてくれるのである。
ミュージカル「ナイツ・テイル ―騎士物語―」は7月27日~8月29日に帝国劇場で、9月18日~10月15日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。
7月25~26日に東京・丸の内の帝国劇場で行われたプレビュー公演はすべて終了しています。
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