猥雑なカオスとそれが生み出す黒くたぎった生命感が生と死のぎりぎりの境目の中で熱く光る尋常ならざる作品…★劇評★【舞台=罪と罰(2019)】
「自分のような特別な人間(選ばれた非凡人)には、その行為によって人類が救われその行為が必要ならば、(新たな世の中の成長のために)社会道徳を踏み外し法を侵してもいい権利を持っている」。これは昨今、日本や海外で頻発する無差別大量殺傷や無軌道な通り魔的凶行を犯した犯人たちがうそぶいた言葉ではない。今から150年以上も前にロシアの文豪ドストエフスキーが自身の小説「罪と罰」の主人公に抱かせた言葉(一部分かりやすいように追加・改変しています)だ。歴史的には、マッドサイエンティストや一部の政治家にこうした考え方をする人たちがいたが、一般の人たちの中にこうした考え方が普通に広がっていくことをドストエフスキーは予感していたのだろうか。人類は科学技術の発展や徹底した話し合いの精神で多くのことを乗り越えてきたが、「罪と罰」の問題だけは、太古の昔から、そして「法」という考え方が人類に芽生えてから、そしてドストエフスキーの時代から、なんら変わってはいない。シアターコクーンが海外の才能とタッグを組むシアターコクーン・オンレパートリーの第5弾「DISCOVER WORLD THEATRE vol.5」として取り組んでいる舞台「罪と罰」は、そのことの恐ろしさと人間というものの根源的な成り立ちを強烈に私たち観客の目に耳に突きつけて来る作品。しかも、この「DISCOVER WORLD THEATRE」のきっかけとなった舞台「地獄のオルフェウス」を演出し絶賛を浴びた英国の気鋭の演出家、フィリップ・ブリーンが、その「地獄のオルフェウス」で才能の開花を促進させた三浦春馬を主演に世界的文学作品に挑んでいる。ブリーンが手掛けた2017年の「欲望という名の電車」ともまた違った猥雑なカオスとそれが生み出す黒くたぎった生命感が生と死のぎりぎりの境目の中で熱く光る尋常ならざる作品に仕上がっているのだから、放っておけない。(画像は舞台「罪と罰」とは関係ありません。単なるイメージです)
舞台「罪と罰」は1月9日~2月1日に東京・渋谷のシアターコクーンで、2月9~17日に大阪市の森ノ宮ピロティホールで上演される。
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