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<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

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阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に…
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2019年12月の記事一覧

悲しみにさえ分け入って、さらなる感情を描き出している城田優の繊細なアプローチ…★劇評★【ミュージカル=ファントム(城田優・木下晴香・木村達成出演回)(2019)】

 オペラ座の地下に潜む何者かに私たちがこんなに惹かれるのは、その何者かがダークヒーローのようにスタイリッシュだからでも、モンスターのようにおどろおどろしいからでもない。私たちはその何者かに悲しみというものの本質的で根源的な何かを見ているからだ。アンドリュー・ロイド=ウェバー版「オペラ座の怪人」でもその悲しみは色濃く描かれていたが、脚本家のアーサー・コピットと作曲家のモーリー・イェストンによるもうひとつの「オペラ座の怪人」である「ファントム」にいたっては、その悲しみにさえ分け入

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朝夏まなとの天性の明るさと茶目っ気がこの上ない強い武器に。成長し続ける作品にさらなる光…★劇評★【ミュージカル=天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~(朝夏まなと・大澄賢也出演回)(2019)】

 演技派として高い評価を受けていたウーピー・ゴールドバーグをさらに一段上のスターに押し上げた映画『天使にラブ・ソングを…(原題Sister Act)』を原作にミュージカル化された「天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~」の日本人キャスト版3度目の公演が開かれている。今回はデロリス役にスケールの大きな演技と歌が特徴の朝夏まなとを迎え、よりパワーアップ。Wキャストの森公美子とともに、まだまだこのミュージカルが成長し続ける作品であることを私たちに深く印象付けている。特に朝夏の持

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すべての穢れをその華奢な背中に背負って、純粋という名の魂に向かっていく哀しくも美しい冒険譚…。★劇評★【ミュージカル=キレイ~神様と待ち合わせした女~(2019)】

 結局、自分が何者かを探し続けるのが人生というものかもしれない。それはどんな時代もどんな国でも、どんな突飛な設定でも…。特に幼いころにさらわれて10年間も監禁されていた少女にしたらなおさらだ。昔のことはほとんど忘れてしまっているのだから。そして未来であるはずの世間(ソト)というものもまるで知らないのだから。松尾スズキが主宰する劇団大人計画のシアターコクーン公演のために2000年に書き下ろしたミュージカル「キレイ~神様と待ち合わせした女~」は運命に導かれるように状況が激しく沸騰

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戦地に吹き抜ける風が私たちの心の中にもたらす得も言えぬ叙情の思い…★劇評★【舞台=風博士(2019)】

 「風」と聞くと、どんな空でも吹き抜けることができる自由なイメージや、風まかせとか風来坊という言葉から来る気ままで柔軟なイメージ、そして、国境や地上の形状に左右されない超越したイメージが思い浮かぶ。そのせいだろうか、このシス・カンパニー公演「風博士」は、戦争という最も過酷な状況の中で死と隣り合わせに生きている人々を描いているのにどこかさわやかで生命力さえ感じさせる。それは果たして悟りか諦観か覚悟か。軽やかで自由な雰囲気は、人間や国家の矛盾が渦巻く大陸の現実を飛び越えて、私たち

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