えせデザイン思考ワークショップには気をつけろ:カスタマージャーニー編。イギリスの美大で学んだ僕の意見(偶然日記#14)
今日はデザイン関係の話題を。
自分のいる部署も企画系だからそうだが、数年前は「かぶれてんじゃねぇよ」と言われていたのが、最近では「デザイン思考」、「カスタマージャーニー」という言葉を使っているのをチラホラと聞くようになった。
「ロジカル・シンキング」とか「リテラル・シンキング」やら「システム思考」など、いつの時代も色んな言葉が流行る。流行ると関連本がたくさん出て、感度の高い会社が研修に取り入れたり、企画系の担当者がワークショップを受講したり、しばらくすると感度が高くない会社も「ビジネス・マナー研修」と同じような感じで研修カリキュラムに加わる。
僕の得意な領域は「文字をベースとしたデザイン思考」だ(※プロフィールや偶然日記#11「アートと新規事業の類似性: 美大卒生が就職したら社内ビジコン担当になって、そして気づいたこと」で軽く触れてます)。
そんな僕から見る昨今の流行としての「デザイン思考」は、全くもって表面的だ。というか、しっくり行ってないと言う人も多いと思う。英語をよく分かってない英語の先生の授業を受けて、僕が英語嫌いになったように、デザイン思考をよく分かってない講師の授業を受けて、デザイン思考嫌いにならないでください(笑)
デザイン思考を始め、○○思考は、本質が潜む井戸の底に下っていくためのツールであり、きっかけに過ぎません。結局、深く下りて行かなければ意味がない。そこでクリスチャン・マスビアウ著の題名「SENSEMAKING: What makes human intelligence essential in the age of the algorithm(センスメイキング(人間が集合的な経験に意味を与える過程):アルゴリズムの時代において人間の知性を本質的にさせるもの)」が重要な役割を果たす。
つまり、センスメイキングを理解していない講師にはデザイン思考の価値は引き出せない。良い講師を見分ける方法は簡単。「先生、先生が考える死とは何ですか?」とか「宗教とは何ですか?」等、いわゆる哲学的な問いを投げかけ、嫌な顔をせず嬉しそうに自分の言葉で語れているか?(そもそも正解はない。自分の経験を踏まえた独自の切り口を持てているか?つまり、普段から人間誰しもが経験するが、答えのない難題に意味を与えるという行為を体現しているか?)を見るだけである。渋い顔をしたら、その先生のデザイン思考を教える資質はないと思って間違いない。
今回は本物のデザイン思考について、「カスタマージャーニー」というツールを例に説明したい。カスタマージャーニーのワークショップとかでは、一般的に
・ペルソナ(ターゲットとなる具体的な人物像)を描きましょう・ペルソナの対象となる行動(ジャーニー)を追ってみましょう・付箋を使って、行動や感じたこと等を時系列に書き出してみましょう
とか、
・サファリ(フィールド・リサーチ)に出かけましょう・対象となる人物を観察して追ってみましょう・付箋を使って、以下同文
とかをやる。これだけでは全く意味がない。本に書いてあることは結果論の後付けであり、分かりやすく説明用に整えられた”フレームワーク”は、大切な栄養分が溶け出してしまった残り滓であるということを忘れてはいけない。
カスタマージャーニーとは、対象者の事実を羅列することで終わりなのでなく、対象者がどのように世界を切り取っているのか?を見つけることに意義があるのである。以前にも書いたように人間は事実を常に再編集している。その再編集の仕方、風景の切り取り方に、その人物の背景や哲学が隠されている。
それにはシナリオの考えが参考になる。映画の主人公に必要な設定は、「求めるもの+動き+障害+選択」である。主人公は、求めるものに向かって動くと障害が現れ、次の行動を選択していく。これによって主人公の性格が表される。これらのシーンを三幕構成や起承転結といった確立された構成に基づき、無駄なく繋いでいく。
編集されていないカスタマージャーニーには、対象者の物語にとって無駄なシーンがたくさんある。無駄なシーンをカットして、効果的なシーンにフォーカスを当てる。こうして共感できる物語に編集していく、つまり共感できるテーマを導き出していく(カスタマージャーニーをリバース・エンジニアリングしてシナリオにしていく)のがカスタマージャーニーで行うことなのである。
言い換えると、対象者の観察で得た集合的な事実(対象者を取り巻く社会、本人の性格、日時、信条、リアクションなど)に意味を与えていくのである。そのためには意味を与える側の人間が意味を与えられるだけの「経験ー意味づけのプロセス」のストックがないとできない。もちろん多くの種類の「経験ー意味付けのプロセス」を体験してる方が幅広く対応できるが、そうでない場合は自分の経験した領域だけを扱うか、拡大解釈をして自分した経験に引き寄せるかである。
カスタマージャーニーで、事実の羅列だけしているのはアマちゃん、事実に意味を与えられていたらプロ。
(おわり)
※次回の「偶然日記」は8/1木曜日予定。「偶然日記:今の日常を綴る」と「雄手舟瑞物語:青い鳥を探し続けた男が見つけたもの」を毎日交互に掲載しています。明日は「雄手舟瑞物語」です。
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こんにちは