【こころの処方箋ココトバブレンド】■菜の花のほろ苦き味舌に滲み途絶えた過去が芽吹きし宵ぞ
【こころの処方箋ココトバブレンド】
■菜の花のほろ苦き味舌に滲み
途絶えた過去が芽吹きし宵ぞ
そう、あれは31歳の春であったかと思う。
桜の花が咲き誇り、
花冷えの宵であった。
食卓に菜の花の和え物の小鉢だけがあり、
カラになったヴォッカのボトルが転がり、
ターン・テーブルでは、
いまでは懐かしいLPレコードが
掛かったままであった。
ほの暗い灯りの中で、
エルビスの「ラブミー・テンダー」が
同じ溝をクルクルと回転していた。
その宵かぎり、彼女はわたしの
前から消えた。
ふと、今宵、
あの時と同じ菜の花のからし和えが
口の中に広がったとき、
あれ以来、途絶えていた過去が
脳裏に甦ってきた。
はな時は、
時々、こうして、わたしを目覚めさせる。
桜のひとひらが雨に濡れて、
風に舞った・・・。
せき せつお