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流しすぎじゃないだろうか

人生で一番、注射針が腕に刺さる様子を目にする日となった。

ここでは何度か書いているけれどそのシーンが見るのが苦手な私にとって、その度にうわっうわっとテレビから顔を背ける一日だった。

注射がとにかく苦手だ。

実際の痛みというよりも刺さっているというイメージがダメらしい。

高校卒業して大学に入った夏休みに、実家に帰り自転車で15分くらい走ったところまでバイトにいくことになった。

初日、皆さんに仕事を教えてもらいとても楽しくて明日からよろしくお願いします!っと見送られ田舎の通りを自転車で渡ろうとした瞬間、軽トラに後輪をドンっと当てられて、ザザザーっと倒れ込んだ。

いたぁ……一番に痛みを感じたのは右肘だった。左手を当ててその掌を見るとドラマとかでしか見たことのない量の血が出ていた。

え、待って待って。そのまま右の頭も痛いので触ると、また出血。こ、これは頭からこんなに血が出てるというのは縫うってこと? てことは髪の毛どうなるの? ていうか手術……!? 18で今より何倍も怖がりだった私は自分の想像で具合が悪くなってしまった。駆け寄ってくれたバイト先の人たちに「(自分の想像によって)気持ちが悪いです」と言うと慌てて救急車を呼んでくれた。

ところが、それが到着して乗り込んだ時には、頭は出血などしていなく、ただ肘の血をそう勘違いしただけだとわかり俄然しゃんとしてきた。肘すら縫わなきゃダメかと聞くと、これならギリギリ大丈夫だろうと言われる。

それでも交通事故の患者として物々しい音とともに病院に運ばれた。それこそテレビで見てるみたいにお医者さんや看護師さんがテキパキと対処してくれる。

先生が「○○(カタカナ)」と言った時、まずいと思った。なんとなく注射の名前の気がしたのだ。「はい!」看護師さんはすぐに準備にかかる。モタモタしている時間はない。すかさず「(でもおずおずと)すみません、もし注射でしたら私、具合が悪くなるので結構です」

一瞬、そこにいた数人の動きが止まった。ストレッチャーで運ばれてきたまだ顔色の悪い人が横になったままそう言うのだから当たり前だろう。

次の瞬間、男性で30くらいの細身メガネの先生がふっと吹き出した。「うん、注射だったけどじゃあやめましょう。そこまでしっかりしてれば大丈夫でしょう」と言ってなしにしてくれた。

助かったー、と何になんだかわからない安堵の気持ちで感謝していると、準備をやめながら看護師さんが「具合が悪いも何も救急車で運ばれているんですからね! ちょっとでも変わった様子があったらすぐしますからね!」と言った。

なんとなくそんな日のことを今日は思い出していた。

こんな安心と甘さで癒されたい。幡ヶ谷Sunday Bake Shopの写真をお借りしました。



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