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終末世界を救うため、私はゾンビになった

え、ゾンビってほんとにいるんだ。想像していたのとぜんぜん雰囲気、違うんだけど……。
ちょっとかわいいもん。目とかパッチリだし、意外と清潔感ある。

「動物園にいるパンダと真逆だ」と、テレビを見ながらわたしは思った。
あいつら、かわいいと思われているけど近く観たらエグいんだよね。

どうやら、まだ日本がゾンビたちに駆逐するには時間がかかりそうだ。

海外からの人や物資の流出を止め、数名だけの感染者を即座に病院を隔離したことで、感染者数は全く増えていない。
なんだったら「あと1カ月で収束できます!」と総理が言っている。あくまであの総理の言うことだから半信半疑だけど、じきに誰も騒がなくなるだろう。

そう。世界が変わらないと、わたしも変わらない。

今日も9時~5時で事務仕事を終えて、また夜の池袋に仕事へ出かけないといけない。めんどくさいけど、それが「生活」だ。

「アシコさん、ご飯行く?」
「あ。今、炭水化物抜いてて……」

今日も同僚のランチを断った。
はぁ。
といっても四谷のランチなんかにあまり期待はしていない。どうせミックスフライ定食か中華だ。
それよか、このまま浮いた存在でいてよいのか。それだけが不安なのだ。ドキドキなのだ。
早く。早く。ゾンビが襲来してほしくてしょうがない。
早く! 早く! 早く。

そうしたら……。そうしたら……。
仕事で怒られる平日も、赤の他人の男たちのお遊びに付き合う夜も、その貧相な帰り道も、友達がいない休日も一切関係がない、終末世界がやってくる、のに……。
あと、意外とかわいいゾンビにも会えるしね(一度は生で観たいじゃん)。

でも。
日本は平和すぎる。国家機関がちゃんとしすぎている。
ゾンビに侵される世界は来そうにない。

ほとんど眠れないまま迎えた朝に、わたしは決めた。
ゾンビになるぞー。わたしが。

髪をワックスでぐしゃぐしゃに固めて、チークを顔に塗りたくり、街を徘徊してみた。めっちゃ猫背にして一応、それっぽい声を出して。
うぉぅお。うぉぉうぉ。合ってる? 答えは誰も知らない。

警察が来た。
よし。これで日本もパンデミックだ――。

「やめましょうよ。そういうこと。――こういうときに。縁起でもない」
「帰りましょ、お姉さん」

警察官にあやされて、わたしは署をあとにした。
わたしはゾンビになりきれなかった。

やはり、世界は変わらない。
わたしはまた、最低最悪の「生活」を続けないといけない。

ゾンビさん、早く会いたいです。



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