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こんな真っ青な空が毎日毎日憎らしいのでした。

「だから東京はたぶん嫌いだと思います」
山根さんは中教室で行われた自由作文の時間に、こんな言葉を読み上げた。ゆっくり、はっきり、くっきりと。
その音読は心地よく耳障りもよく、思いがのかっていた。
だから耳にこべりついて離れなかった。

そのときの平凡なあたしは「やっぱ大学生てスゲェこと考えているな」と他人事のように感心した。

北陸生まれ。根暗な彼女はゼミ中もほとんど会話をしないし、飲み会にも来ない。

色白の肌は午後イチの授業だと太陽にゆらゆらと乱反射する。綺麗とはこの人のためのフレーズだ。

それからあたしはキャンパスでも山根さんを探してみた。図書館…資料室…研究所。どこにいない。

彼女のスラリとした体つきは後ろ姿でも分かる。
でも、いないのだ。どこ? なんで? は?

太平洋側に浮かぶ真冬の青々とした空を憎んだ、山根さん。
足首だけ異様に細い山根さん。
バイト先のスタバでいかにも仕事ができないオーラを放つ、山根さん。
実はずっと地元・富山が好きな山根さん。


でも、指名手配されていた。
強盗も、殺人も、していたみたい。え……。



あ……山根さん!!
青空を臨むビルの上から……ハイジャンプ。
やはり綺麗だ。


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