キンと来ないかき氷が咲いた
ラーメン屋かよ、と思ってしまった。セカセカと働き、目まぐるしく客が入り乱れる。
ここはかき氷屋だ。
まるで湯切りをするかのように真剣な顔で氷を削るキレイな女性がいた。小林氷雨というらしい。
モデルさんのような顔立ちでスタイルもよいが、汗だくでノーメイクだ。
なんでかき氷屋に……?
と疑問が湧くが、人の仕事に口出しできるほど大それた仕事をしていない。ガソリンスタンドの店長だ。
氷といえば、去年久々に東京で大雪が降ったとき、店に行列ができたイヤな記憶が蘇る。
目の前にいるデート2回目の女子がいちごミルクをガシガシとほじくっている。
キンと来ない。繊細で柔らかく、それでいて生々しい氷の感触もある。
「美味しいね」と笑うその子の舌が赤くてドキリとした。
気付くと氷雨さんがいなくなっていた。シフト制なのか。
化粧すればいいのに。そんなことを考えながらそのデートは終わる。
返事は返ってこなかった。どうやらマッチングアプリで無双をこいているらしい。
どおりで会話もこなれてるワケだ。
それから8日後。夕立が降りしきる日。
巣鴨駅前で傘を持たず立ち尽くす女性がいた。
雨で化粧が崩れている。
それは、かき氷屋の氷雨さんだった。その日は険しい顔をしておらず、氷のような優しさを感じた。
俺は当然のように恋に落ちた。
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