山出淳也(BEPPU PROJECT代表理事 / アーティスト) - 継続的な組織運営と関係性の蓄積が、経済循環を生み出す
人が交差する“辻”のような場をつくる
BEPPU PROJECT(※1)を立ち上げた2005年、大型観光地・別府は時代遅れのように感じられることもあり、アートNPOとして事業を展開することは極めて難しいと、当時親身になって相談に乗ってくれていた人からも止められました。その当時の別府は中高年の男性団体客が6割以上を占めていましたが、全国の観光業においては女性客が6割以上。バス旅行のような大人数の団体客は全国的にはもはや少数で、個人または少人数グループでの旅行が主流でした。60代以上の男性は年間宿泊数も多く、若年層に比べて観光消費額も大きいのですが、この層が将来的に伸びていくことは難しい。であれば、これから成長する層である若い人たちに向けて情報を発信し、彼らから両親や祖父母に情報を渡してもらった方が効果的なのではないか。新たな魅力となるアートを入り口に別府や最大の魅力である温泉に興味を持ってもらうことで、ニッチではあるけれどターゲットをしっかり捕まえることができるのではないかと考えたのです。こうして、僕らの活動はこれまで別府が苦手としてきたセグメントをターゲットとして定め、何人来たかということではなく、誰が来たのかということを価値として活動を展開してきました。このような考え方は、いま目の前にいるお客さんやマーケットだけを見て活動を始めていたならば、たぶん生まれてこなかったと思います。
これまでBEPPU PROJECTが関わり、1000を超える事業が実現しました。たとえば家主に協力してもらって、空き家や空き店舗をリノベーションし「platform(※2)」という公民館のようなスペースを中心市街地に8ヶ所つくりました。ここでダンス公演やワークショップ、講演会、展覧会などさまざまなイベントを開催することで、まちの寛容度を高め、若い女性客が訪れやすい環境をつくっていったんです。このような場所が街中にでき情報の発信に力を入れると、連鎖するように別の場が生まれたり活動が誘発され、地域の魅力が高まり空き店舗が続々と埋まっていきました。別府の温泉は、観光客だけでなく地元の人も日常的に利用しています。竹瓦温泉という一番有名な温泉にも、市民が毎日通っています。そこで生まれる人と人との関係性が他にはない別府の資源だと思います。別府にとって温泉は、人が交差する“辻”のような存在です。「platform」も、そんな“辻”のような場をつくろうと思って始めました。
地域で活動する組織が“関わりしろ”となって人々を巻き込む
BEPPU PROJECTは領域横断的に活動することで、創造性によって縦割りに横串を刺すような役割を担っています。アートやさまざまな事業を通じて地域に本来あるものを補助し、増幅していくことを目指しています。そしてそれらの活動や地域の魅力を発信することによって、都市ブランドの向上、移住者や関係人口の増加などの成果から地域や経済の活性に寄与し、さらには産業が生まれることもあります。移住者たちが独自の視点で発信をすることで、さらに移住者が増えていくケースもあります。そういう小さなサイクルを強化し加速していけるよう、地域の参加意識を高めつつ、恒常的に活動しています。
地域における活動には、ベースとなる組織が絶対に必要だと思っています。よそ者が地域に関わることで、前例や慣習にとらわれない活動が生まれることが期待できますが、そういう人たちが長期的に関わり続けていくことはなかなか難しい。そこで、地域で活動する組織が”関わりしろ”となって、より多くの人が関わりやすい状況をつくることが理想だと思っています。しかし、その大きな課題はマネタイズです。国や行政の支援は、その組織が経済的にも成り立ち、持続していけるモデルをつくるためにこそ必要だと思います。もちろん、組織としては行政に頼るばかりでなく、民間としてできることを実践し、地域にとって真に必要とされる活動を展開すべきです。その組織がハブとなり、行政も含めてさまざまなスキルや経験を有する人たちとパートナーシップを組んで活動していくことこそが、新しい公共のあるべき姿ではないでしょうか。
プロジェクトごとに「リセット」では、経済循環も持続もない
予算がついたから実行委員会を組織して芸術祭を開催し、終わったら委員会が解体される。地域と関係性をつくった人たちも離れていって、また開催するときにはその都度人を集めるということでは、現場の人間がプロジェクトごとにリセットされ続けて、継続性もなければ経済循環もなく持続しません。受け入れる側の地域の人たちも疲れていきます。
だから地域では民間で組織をつくり、その組織において一人ひとりの役割を明確にしておくことが、ビジョンの共有を図る上でとても大切な指標になってくると思います。動員数や収益、波及効果などの評価だけでは見えてこないものがあります。地域に関わる人たちは、地域にとっての重要なリソースでありエンジンです。これらの人たちがいないと何が失われるか、可視化することが大事です。
アートの果たす役割としての従来の価値を揺さぶる発想力や表現力、クリエイティビティを必要としているのは、文化・芸術だけではありません。アートは制度設計や地域産品のブランディングによる6次化の促進、障害者施設や高齢者施設など、あらゆる領域に関わり、これまでにないまっさらな目で、何が大切かを再発見・創造していく存在です。クリエイティビティというのは人間のさまざまな営みの中のサブセットです。僕は、全ての人がクリエイティビティを発揮できる社会の実現を目指しています。それには、あらゆる可能性が否定されない環境づくりが不可欠です。そんな未来をアーティストたちと共につくっていきたいと思っています。