読書記録 2024年4〜6月に読んだ本
こんにちは、せ→る→です。
本日は2024年4〜6月に読んだ本の感想を書いていきます。
「若葉荘の暮らし」畑野智美
とても良き。とても好き。
主人公の望月ミチル(もちづきみちる)は、個人経営の飲食店でアルバイトとして働いている。感染症が流行し、賃金が減る中で紹介されたのが、「四十歳以上の独身女性限定」のシェアハウスだった。
独身女性の悩み、仕事や将来に対する不安。同世代の住人たちや職場の同僚、常連さんと交流していく中で、前に進んでいくお話。
畑野さんの「ヨルノヒカリ」という作品の雰囲気がとっても好みだったので、他の作品も読んでみようと思い、手に取りました。ドンピシャで好きな作風でした。
読んでいて優しい気持ちになれる物語がやはり大好きです。
ミチルと同世代の女性は特に共感しながら読めるのではないかな、と思います。同世代じゃなくとも、将来こんなことを考えるかもな、とか。こういう不安や心配を抱えている人がいるんだな、とか。気付かされる部分もあるはずです。
自分にとって居心地の良い場所を一度見つけてしまうと、新しいことに挑戦しなくなる、というのはすごくよくわかります。今の状況より良くなる可能性があっても、なかなか環境を変えようとする人は少ないイメージです。
だから、行動に移せる人はかっこいいなと思います。そういう人に憧れながらも同じ場所で足踏みしているのが私なのですが(笑)
落ち着いた雰囲気で心温かくなる作品でした。面白かったです。
「恋とポテトと夏休み」神戸遥真
学校に上手く馴染めず、退屈な日々を送っていた高校一年の守崎優芽(もりさきゆめ)。夏休み前、ひょんなことからハンバーガーショップでアルバイトをすることになってしまう。
人付き合いが苦手な優芽が、アルバイトを通して成長していく物語。
ザ・青春って感じでとても好みでした。優芽がうじうじする姿はちょっぴりイラッとしましたが全体を通して楽しく読めました。
「スーツケースの半分は」近藤史恵
めちゃくちゃ好みの作品でした。面白かった!
山口真美(やまぐちまみ)がフリーマーケットで買った青いスーツケース。夫に反対されながらも、彼女は初めて一人でニューヨークに行くことを決意する。
友だちたちにスーツケースを貸したり、スーツケースの始めの持ち主が登場したり、すべてが縁で繋がる9つの短編。
はい、好き。
旅先で良いことが起こったり、自分の今後を見つめ直したり、気持ちがスッキリしたり、誰かと出会ったり。多少ボロボロになっても、青いスーツケースがみんなを見守ってくれる。
ほっこりするお話で、すごく読んでいて心地良かったです。
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ
小説で久しぶりに泣きました。めちゃくちゃ良かったです。
物語の主人公は三島貴瑚(みしまきこ)。虐待されたり親の介護をしたり恋人に依存したりと、上手く生きてこられなかった彼女は、新たに移り住んだ町で、自分のことを「ムシ」だと名乗るあまり喋らない少年と出会う。
かつての自分のように生きる希望を持っていない少年と自分を重ねた貴瑚は、どうにか彼を救いたいと願うようになる。
2021年に本屋大賞を受賞し、2024年3月に映画も公開された話題作品で、もちろんタイトルも作品のあらすじも知っていましたが読むのを先送りにしていました。
それはですね、虐待が描かれるから。
作品として見るのも苦手ですし、ニュースでリアルなものを聞くのも苦手です。いや、得意という人はいないと思いますが…
本作も貴瑚が虐待される描写はしんどかったですね。しんどいよりもむしろ怒りがわいてくる感じ。
そんな全体的に暗い雰囲気の作品ですが、貴瑚の友人である美晴(みはる)と、新しい町で出会った青年・村中(むらなか)がめちゃくちゃ良い人すぎて泣けます。こんな素敵な人に貴瑚が出会えてほんと良かったです。
特に美晴はまじで強い。物理的な強さじゃなく心が鬼強い。今作のMVPだなと個人的には感じました。どんなときでもどこにいても貴瑚を見つけて引っ張り上げてくれる存在。
あとですね、こいつ絶対危ないと登場してすぐ違和感を覚えたキャラクターが案の定ヤバい奴でした。「ほらやっぱり…」でしたね(苦笑)
生きづらさを抱えた人と、それに寄り添ってくれる人。しんどくなったり、腹が立ったりしても、希望が見えるラストを読まずにはいられない。
「恋とポテトと文化祭」神戸遥真
神戸さんの「恋とポテトと夏休み」の続編。1巻では主人公・優芽(ゆめ)のアルバイトでの成長がメインでしたが、2巻では恋や友達との悩みが多く描かれています。
学校の同級生でありバイトの先輩でもある源拓真(みなもとたくま)と優芽を見ていると、じれったくてしょうがない。正直いうと、思い込みの激しい優芽のことはあまり好きではないのですが(笑)
上記引用部分はめちゃくちゃ可愛いなと思いました。
「恋とポテトとクリスマス」神戸遥真
「恋とポテトと文化祭」の続編。
今作では、恋の結末が描かれたのはもちろんのこと、優芽(ゆめ)が進路を考えていきます。文系理系どちらに進むか、自分のやりたいことは何なのか。バイトの先輩たちの話を聞きながら、自分のことを見つめ直していく。
他にも、文化祭のクラス打ち上げをしたり、バイト仲間とクリスマスパーティーをしたりと、眩しいくらいのアオハルがすごく羨ましかったです。いいなぁ、楽しそう。まあ、私の高校はバイト禁止でしたがね。
シリーズ最終巻、面白かったです!
「谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題」東川篤哉
谷根千を舞台に繰り広げられる日常ミステリ…と言いたいところですが、殺人事件もあるので日常でもないミステリ短編です。大学生の岩篠つみれ(いわしのつみれ)と、開運グッズを売る『怪運堂』の店主・竹田津優介(たけだづゆうすけ)のバディが事件を解決していく。
事件要素は好きなのですが、どうも登場人物のテンションがみんな高くてノリきれない。ノリについていけなさすぎて真顔で読んでしまった(笑)
「家と庭」畑野智美
二人の姉・葉子(ようこ)と文乃(ふみの)、妹の弥生(やよい)をきょうだいに持つ、フリーターの望(のぞむ)。単身赴任で父は家におらず、結婚して家を出て行った葉子が、娘を連れて実家に戻ってきたことで、男一人・女五人の生活が始まる。
家族の物語。
何事もない日々が送られていく中でも、少しずつ周りは変わっていく。今まで頼りにしていた家族が家を出てしまうとなると、心細く感じたり、今まで頼られていたのに、恋人ができたり成長していく中で、どんどん頼られなくなることに寂しさを覚えたり…
現実で生活していると目にとめない(目まぐるしく変わる生活の中ではあまり気にしていられない)ような感情を、丁寧に綴っている物語だなと感じました。
マイペースな望の行動にはちょっぴり呆れてしまう部分もありますが、望は優しくて思いやりを持った人間なので、この物語のあと彼がどんな行動をするのかなぁと想像するととてもわくわくしました。
優しくてほっとできるお話。すごく好きな作風でした。
「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信
小市民を目指す小鳩常悟朗(こばとじょうごろう)と小佐内ゆき(おさないゆき)。ポシェットや自転車が盗まれたり、同じような二枚の絵の謎を解明したり、日常ミステリ作品です。
うーん。アニメ化すると知ったので読んでみましたが、私には合いませんでした(苦笑)
「線は、僕を描く」砥上裕將
2020年本屋大賞第三位、2022年に映画化もされた作品。
初めてこの作品を知ったときから、すごく素敵なタイトルだなと思っていました。主語が「僕は」ではなく「線は」なのがミソですよね。読了してみて、意味がわかるとより素敵なタイトルだなと感じます。
両親を事故で亡くし、喪失感を抱えた大学生・青山霜介(あおやまそうすけ)。展覧会設営のバイトをしていると、有名な水墨画家である篠田湖山(しのだこざん)に気に入られ、勝手に弟子にされる。
ひょんなきっかけから水墨画をやることになった霜介は、様々な水墨画や水墨画家との出会いを通じて水墨画の面白さを知っていく。孤独な青年の再生物語。
水墨画を描くシーンがとても具体的で、実際に見てみたい!と思いました。霜介が作中で、ある水墨画に対して『赤が見える』という感想を述べるのですが、白黒なのに色が見える感覚ってどんな感じなんだろう。
こちらの作品、第59回メフィスト賞受賞作なんですよね。メフィスト賞はてっきりミステリの賞だと思っていたのでびっくりしました。
とても面白く、新しい世界を体感できて楽しかったです。
「空に咲く恋」福田和代
女性が近くにいると呼吸困難を起こすなど、女性アレルギーがある主人公・三輪由紀(みわよしき)は、花火店の実家を飛び出し、一人で村で暮らしていた。あるとき村で、花火師の清倉ぼたん(きよくらぼたん)と出会い、花火の魅力を再確認したことで花火師を目指すことを決める。
花火師である父の花火への情熱や、ぼたんの花火へ向ける思いに触れ、ヘタレで消極的な由紀が花火師として頑張っていくお話。
花火師を題材にしているのが新鮮で面白かったです。花火師としてのお仕事を中心にした作品を期待していたので、恋愛要素は別にいらないんじゃないかなぁと個人的には思いました。
風が多少ある方が花火のコンディション的には良いそうです。風が全く吹いていないと、煙が残ってしまい、次にあがる花火が見えにくくなるらしい。初知りでした。(花火自体あまり見ないので…)
「ラブカは静かに弓を持つ」安壇美緒
2023年本屋大賞第二位。第六回未来屋小説大賞第一位。第二十五回大薮春彦賞受賞。
本屋大賞が発表されたとき、音楽×スパイと知って、すごく興味を持っていた作品です。スパイと聞いて、てっきりスパイファミリーのような敵国の情報を探るようなスパイを想像してしまったのですが違いました。
不眠に悩まされている橘樹(たちばないつき)は、全日本音楽著作権連盟(通称、全著連)で働いている。全著連は、音楽教室での楽曲使用を著作権に反しているとみなし、お金を請求しようとするのだが、音楽教室側はもちろんそれを拒否している。
全著連と音楽教室で楽曲使用に関する裁判が行われることを見越し、橘は音楽教室にスパイとして調査をすることになる、という物語。
想像していたスパイとは全然違いましたが、めちゃくちゃ面白かったです。全体的に落ち着いていてほの暗い雰囲気の作品なのですが、すごく好きな感じでした。
潜入していることがバレそうなどきどきもありますし、演奏シーンの描写も綺麗。橘のしんどい心情も伝わってきてこっちも辛くなるけど、読後感は良い。
あの終わり方はすごく好きです。いやー、すごく好き。めっちゃ好き。好きだわ…すごく充実感のある読書時間でした。
「大人になったら」畑野智美
好きだわ…(ため息)
35歳、独身、カフェで副店長をしている主人公・葛城命(かつらぎめい)。仲の良い友人と連絡もとっているし、副店長として充実した日を送れている。
ただ、結婚して子どもがいる同年代や後輩世代を見ていく中で、彼女は恋愛や結婚、これからの仕事について、見つめ直していく。
年齢を重ねていくにつれて恋愛から遠ざかったり、いざ良いなと思える相手がいても、上手く距離を縮められなかったり。
恋愛だけでなく、働き方は今のままでいいのか不安になったり。後輩やアルバイトの子たちとの世代間ギャップがあったり。
何気ない日々の中で、少しずつ変わっていく周りに寂しさを感じながらも、彼女自身も着実に変化している。
畑野さんの作品は心穏やかな作品が多くてすごく好きです。リアルにありそうな彼女の日常に、読んでいると自然と入り込んでいる感じ。好きだわ。
主人公のこの考えがすごく印象的でした。
「川のほとりに立つ者は」寺地はるな
2023年本屋大賞第9位。寺地さんの作品がノミネートされていると知ったとき、すっごく嬉しかったです。やっと読みました。
カフェで店長として働く原田清瀬(はらだきよせ)は、恋人の松木圭太(まつきけいた)と喧嘩をしていて最近連絡を取っていなかった。だがあるとき突然病院から「松木が怪我をし、意識がない」と電話がかかってくる。
松木との喧嘩の原因、松木と一緒に怪我をしたという岩井樹(いわいいつき)、岩井の彼女や母親、カフェの店員……
他者との関わりを通して、相手の意外な一面を知り、自分の思い込みに気づいていく。傷つき、傷つけられながらも、清瀬が成長していく物語。
他者の背景(?)を想像するのって正直疲れます。あの言葉の裏には…とか、あの行動の本当の意図は…とか、いちいち考えていたらキリがない。それでも、ちょっとだけ想像力を働かせることで、誰かを不必要に傷つけることはなくなるのかもしれないなと思いました。
この作品を読んで特に印象に残っているのが清瀬とカフェ店員たちの接し方の変化。
店長と店員たちの関係性が良い方向に変化していく様子を見るのがすごく好きでした。引用したシーンがイチオシです。
以上14作、2024年4~6月に読了した本の感想を書いてみました。私事ですが4月から新しい仕事を始めてそれに慣れるのに追われ、あまり読めませんでした。(読みたかったのに、思うように読めなかった)。
できれば一週間に二冊のペースで読みたい(笑)
「52ヘルツ~」「線は~」「ラブカ~」「川の~」と、今回は本屋大賞ノミネート作品にたくさん触れました。どれも本当に面白くて幸せでした。読めて良かったです。