寄せ集め部隊スピンオフ・AZURITE/たった1人の

線の細い紳士的な中年男性。長く伸ばした髪をまとめ、几帳面な性格を伺わせるスーツを着込んでいる。
彼は隣国から家庭教師として出張してきたペトロドスコフという人物。昔見たドラマの中の教師に心惹かれ、教師になる道を目指した。
彼の夢は成功を収めた。しかし、勉強熱心で好奇心と情熱が人並外れていた彼は世界各国を渡り歩いた。
自身が最高の教師になるために生涯を費やしたいのだ。
そうして磨きに磨かれた個性は小学校、中学校での研修と高校での実務経験。塾でも講師を務めて来た。
しかし、彼も決して若くはない。長年の無茶が影響して身体を壊してしまうが、それでも諦めずに立ち上がった。
そんな彼を見た友人は、
「それなら家庭教師でもやればいいだろう。お前も俺もおっさんだ。無理はできないからな」
と言い放った。
今度は家庭教師か、それもいいかもしれないと個人で様々な場所に赴いては懇切丁寧に教え子が必要としている事を全て提示した。
特筆すべき点は、それが一時の関係では無いという点。
それは傍から見れば理解しきれない事だったのかもしれないが、勉強と就職活動を両立する生徒には、採用に関する情報収集などを行い、悩み事があれば寄り添って考えてくれる。
「付き合いのいい叔父のようだ。そこまでしてもらってしまっては申し訳ない」と生徒の親が身を案じた時の彼の切り返し方は、「問題はないでしょう。私が趣味でやっている事なのだから。親御さんが責任を感じる必要は全くありません。生徒に親身に寄り添うのは一教師として当然だと思っています。それとも、余計なお世話は不要でしょうか?」などと言い、情に厚い一面が感じられる。
だからこそ彼は、不登校の少女にも今まで接してきた多くの生徒の様に扱ったが、彼女は違った。
逸材だった。
家を訪れる時、年甲斐もなくワクワクしてしまう。
今日はどんな科目を教えようかと彼の使い込まれた革の鞄にはぎっしりと資料やファイル、教材が詰め込まれていた。
「私も勉強になる。教えられることばかりだ」
呟きながらネクタイを直し、インターホンを押した。

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