Reine Liebesplatte/愛憎に呼び
「エリシ先生、マクレナから連絡はありました?」
とある高校の職員室の隅。
女子生徒が顔を曇らせていた。
「いいや。無い。数日休むと言ってからは何も来ていない」
教師であるカリゼルス・エリシは教え子の1人を心配していた。
3年の学年主任である彼は、心でせめぎ合いをしていた。
寄り添ってあげたいが、かえって負担になったりはしないだろうか?
余計に傷を広げたりしないか?
マクレナは熱心で真面目な生徒だった。少し惚れっぽい所を除けば優秀過ぎる程の。
そんな彼女は、家庭環境の相談事が多かった。エリシも何度か相談を受けていた。
本人からも、気にかけている友人からも。
それに耐えられずに自暴自棄になってしまったのだろうかと、エリシは焦っていた。
しかし、時を同じくして当の本人は、家族ぐるみの付き合いがある親友一家に電話をしていた。そして、1つの答えを出した。
マクレナが負った精神的な深手を癒すために、一家の娘が立候補した。
事情を詳しく説明したら、彼女がどうしても行きたいと言ったから、良ければ同居させてもいいだろうか。
という内容だった。
マクレナは受話器を置くとまるで救われたかのように軽やかに跳ね上がった。
「どんな娘かしら?いっぱい愛でてあげる・・・」
マクレナは高校を中退、日本に向かった。住んでいた場所とは想像がつかない程遠い国。だが、不安は多かった。叔母が住んでいるが、最大の問題が1つあった。
マクレナは、日本語が話せない。叔母に教えてもらおうと思ったが、
「翻訳機でなんとかなるんじゃない?それに、中学生の時にスペイン語を勉強してたでしょ。なんとかならないの?」と言われた。
翻訳機という選択肢は悪くなかった。考えてみようと思ったマクレナだったが、後者のスペイン語の件には反論した。
「わかるけどね。スペイン語と日本語は違うのよ。難しいの」
叔母には一連の出来事と病んでいる事を伝えてはいなかった。
見慣れない日本の建物の間取りに困惑しつつも、叔母との再会を喜び、居間で談笑を交わし、故郷から一番近いニュルンベルク空港からの長旅で疲れていたマクレナは、シャワーを浴びたら夕食も食べずに寝てしまった。
慣れない土地というのは精神的に疲れてしまう。
マクレナが寝た後、まだ深夜に差し掛かる程の時刻では無い頃。
「来たよ」
「あぁ!久し振り!元気だった?」
物腰柔らかなお婆さんが、女の子を連れて訪ねて来た。それは、待ち望んでいた”癒しの候補者”だった。
一泊した後、お婆さんは孫を送っただけと帰っていき、女の子は残った。
荷物を整理し、叔母は洗濯を始めた。
一連の出来事が終わった後も、肝心のマクレナは寝ていた。
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