直葬について思うことをいくつか
11月23日AERA dot.で直葬がとりあげられました。https://dot.asahi.com/articles/-/240663?page=1
お葬式も時代の変遷とともに小さくなり、特にコロナ禍の影響は大きく一時期は火葬場も閑散としていました。ただ、東京の火葬場の様子をみると、だいぶ人数が増えてきている印象です。東京の場合、大体5人のうち2人は直葬を選び、3人は何らかの儀式をされているそうです。
まず直葬とは何なのか?
ご安置場所(火葬場安置の場合もあります)から、儀式を挟まず直接火葬することを直葬(ちょくそう)といいます。とはいっても、亡くなってそのまま火葬炉へ直行するのではなく、一度どこかに安置します。これは亡くなってから24時間は火葬できないと法で定められているためです。火葬炉の空き状況により、安置日数は増えます。その間のどこかで納棺し搬送し火葬という流れです。遺族の方々は火葬場で集合という形が多いと思います。
葬儀とは何なのか?
直葬は葬儀なのかは個人的に大変興味ある問題です。というのも、「葬儀」は文字通り「葬い」の「儀式(ceremonial)」または「儀礼(ritual)」を指すからです。
葬儀の研究も多々ありますが、国立歴史民俗博物館教授・山田慎也先生の葬儀は「死の変換装置」という概念がしっくりきます。そこには、物理的変換(ご遺体へ)、文化的な変換(遺された人々と故人との新しい関係)、社会的な変換(生前の社会的な役割を受け継ぐ)があることが示されています。
葬儀での個人的体験としては、二度とはない別れを深く心に刻み、人生の節目を実感し、気持ちに区切りをつける場であり、また、命や想いなど形ないけれども確かにそこにあるものを、目に見える形にして死別に向き合う機会になることが考えられます。
葬儀には必ずしも、大きな祭壇やたくさんのお花が必要なわけではありません。例えば、故人を偲びながら遺された人々が広場に仰向けになり青空を眺める、そんな見送り方でもいいのかもしれません。華やかさより大切なもの、それは日常とは異なる「特別な時間」を作り出し、自分以外の誰かとその「体験を共有」することです。そこから生まれる何かが葬儀の価値なのではないでしょうか。
儀礼・儀式は葬儀だけではありません。
入学式がなくても学校には入ることができることでしょう。お祭りのお神輿がなくても季節は巡ることでしょう。
でも、あるとないのとでは、大きく違ってくるものがあるのではないかと思うのです。人生の節目や季節の移り変わりを実感し、それをまわりの人々と分かち合うこと。
生涯消えることのない、自分の中に蓄積される体験価値。これこそが儀式や儀礼の力であり、意味だと思うのです。
直葬は結局、何なのか?
そう思うと、直葬には物理的変換の機能はあるけれども、文化的・社会的変換の要素、また「特別な時間」や「他者との共有」の要素が欠けているのではないかと感じます。それぞれの価値観やご事情もあり、一概に良いも悪いも判断できないところではありますが、直葬は葬儀ではなく、また別の「弔い」のかたちなのではないのかと思うのです。
直葬を選ぶ理由
直葬を選ぶ理由は多岐に渡ります。儀式に意味を見出せない。経済的な理由。死因によるもの。シンプルを突き詰めていった結果。家庭の事情。故人の遺志。
故人の遺志に関しては、「大事な人々を煩わせたくない」、「この世を去る自分にお金を使うより遺される人々に役立ててほしい」など、命を継ぐ人々を大切に思う気持ちが大きいような気もします。そのことによって逆に、遺族が心を整理する機会が失われるのは、グリーフケアの観点からも、大変残念に感じるところです。
直葬の価格について
ネット検索では直葬が低価格で表示されることと思います。それは、葬儀社から提供される物やサービスを可能な限り削減した結果です。
直葬をお考えの方こそ、事前の相談が必要だと切に感じます。思っていたお別れとはもしかして違っているのかもしれません。
安置の間に面会は可能なのか?納棺には立ち会えるのか?それとも次に会うのは火葬炉の前なのか?そこで、どれくらいのお別れの時間が取れるのか?
ご逝去から火葬までの流れ、提示されたプラン内で提供されるサービス、追加料金がかかる項目など、悔いのないよう具体的にイメージできるまで確認しましょう。
一生のうち何度もないことです。ここはしっかりがんばりましょう。
気持ちの区切りのつけ方についてのアイデア
家族以外の方で最後のお別れがかなわなかったり、不本意な理由で直葬になってしまった方もいらっしゃるかもしれません。気持ちの整理がつかない、いつの間にか終わってしまったなど感じる方もいるかもしれません。そんな時でも、工夫次第で区切りをつけることができます。簡単にできるアイデアをいくつかご紹介します。
「故人への手紙」
感謝や思い出、伝えられなかったことを手紙に書いてみる。言葉にすることで気持ちが整理され、つながりを感じることができます。
「自分だけのお別れの儀式」
故人がよく聞いていた音楽を聴きながら思い出に浸る、好きだった料理を作って皆で食べるなど、自分らしい形で特別な時間を設けること。
「他の人と故人の話をする」
思い出の共有です。自分が知っている故人を誰かに話したり、誰かから聞くことで知らない故人の一面を知ることができるかもしれません。
「グリーフボックス」
ちょうどよい大きさの箱を用意して、写真や思い出の品々を入れます。気持ちの整理がつくまで、いつでも振り返ることができます。
「寄付」
故人の名前で例えば図書館や施設などに故人の大切にしていたものを寄贈する。
その時々に感じている気持ちを十分に感じながらも、決して無理せずにすすめることがグリーフを安全にすすめる意味で大切だと思います。