シングルベッドも悪くない
プロフィールの通り僕は入眠に多少の障害を持っており、寝付きがすこぶる悪い。眠くても寝ようと意識すると眠ることが出来なくなってしまうのだ。特に翌日が朝早い時は「早く寝なくては」という思いと「起きられるか」の不安から徹夜することも少なくない。
そんな僕にとっては人がいる環境は最悪だ。特に旅行で同部屋で人と寝る時など耐えられない。気配や物音に気を取られて寝ることなどとてもできないのだ。そんな時は大抵1人で夜の道を散歩する。別に気取っている訳では無い。寝れずに少し遠いコンビニに行ってみる経験などしない方がいいに決まっている。そして次の日は昼なのに大抵元気がない。旅行に来たと言うにもかかわらず。そんな自分の性が本当に嫌だった。のび太のようにいつでも寝ることが出来るなんて才能が欲しかった。
大学に入り一人暮らしをしている部屋に当時の彼女が泊まりに来ることになった。当然シングルベッドしかない部屋で生活していた僕は彼女が来る前から不安だった。寝れないに違いないし、それによって彼女を不快にさせるかもしれないからだ。別にダブルでもツインならまだしも、狭いシングルで横に人が寝ている状況などもはや苦痛に等しいと感じられた。
適当に食事などを済ませ、いざ寝る時間が来ると案の定僕は寝付くことなど出来なかった。
「またこのパターンか。後でコンビニにでも言って時間を潰そう」
そう思っていると、狭いシングルベッドの至近距離で彼女はすぐに眠りについた。
寝れない僕はベッドの近くに腰掛け、携帯をいじりながら彼女を見ていた。
初めて見るすっぴんで無防備に眠る彼女に僕は愛おしさを感じざるを得なかった。
「まつ毛長いんだな。」
「意外ともみあげが長くて可愛いな」
そんなことを思いながら見とれていると普段なら永遠に感じられる一人きりの夜の時間があっという間に過ぎていった。
しばらくしていつもの様にコンビニに行こうと思い立った。
足音で起こさないように静かに家を出てコンビニに向かう僕はいつもとは違う気分だった。
「朝ご飯は何がいいかな、何を買っておこう」
「起きた時の一言目はなんて言おうかな」
そんなことを思いながら寝れずにコンビニへ向かう僕の心は2時の闇夜とは対照的に明るかった。
いつもとは違う軽い足取りでコンビニへ向かう僕は眠れない自分の性を少しだけ好きになることが出来た。
シングルベッドで眠る彼女と過ごす眠れない夜はツインで他の人と寝るよりもよっぽどいいものだった。