不服な面持ち_2
コーヒーは、温かかった。
座っているソファも座り心地がよく、
そこはとても快適な空間だった。
だが、自分の心は全く
晴れていないことに気づいた。
依然悔しい面持ちをしている私に、
その人は話し始めた。
「 請け負い過ぎると、吐くぜ。」
私は、何だか少し気持ち悪くなってる
自分に気づいた。
「お前の胃が消化しないんだよ、
お前の食べるべきものじゃないからな、それは。」
この人の口調はどれも軽やかだ。
「お前のものにならねぇものだって、胃袋がお断りしてんだ。そこから、養分とって排泄行きだなんてことも出来ません。ここの関所は通れませんってな。
あぁそういや、ある青年が言ってたな。
誰かの本を読了後すぐ、その著者気取りの理論を酒の席でぶち撒いてみたら、酒とともに吐いちゃったって。
ふふははは、笑える。己のものになってないから、吐いちゃったんだぜきっと。素直な奴なんだぜ、彼はさ。」
その人は、私の目の前のソファに腰掛け、
相変わらずコーヒー片手に、こう続けた。
「胃袋に感謝しな。
食べれもしないものを口にしようとした
お前の代わりに吐いてくれたんだ。
口に入れる前に気づかないと。
お前は人のものを盗れないのさ。
それは、とっても喜ばしいことだぜ。
軽々飲み込めちゃった!って奴、たっくさんいるぜ。
軽々口にして、軽々飲み込めて、
それが当たり前になって、お前みたいな嘔吐する奴が逆に煙たくなる奴がな。
こうなっちゃ、もう、帰って来れないんだ。」
その人の顔に、一瞬悲しげな影がよぎった。
そう言えば、ここのところ、
食べたいと思ってないはずの甘いドーナッツが欲しくて、よく仕事帰りに買って食べていた。
気持ち悪い人間の言動を見た時も、
「おえっ」っともよおす感覚にもなっていた。
そんな自分を思い返していたら、
その人はこう続けた。
「身体が教えてくれることは、もうほぼ最後の警告だ。安易に無視したらいけない。
よく耳を澄まして何を言ってるか聞く。
自分が一体何をしてしまっていたのか..って。
そうして、詫びろ。
"申し訳ない、早く気づかないといけなかったよ"
ってな。」
「 請け負い過ぎる..。
人の物を持ってあげることは、親切や優しさだと
思っていたけど、違うんだね。
自分にとっても相手にとっても、全く良くない。」
吐き気は自然治っていた。
「...、でも一体どうして、それが親切や優しさだと思ってしまったんだろう?」
そう、私が話した時、
コーヒーの人は、いつの間にか自分のデスクの方に腰掛けていた。
そして、こう返した。
「請け負って欲しい奴が、請け負ってくれる奴を見つけて喜んだんだ。請け負った奴もまた、そいつの喜んでくれる様を見て、喜んだ。
だけど結局、そこには、
平等なんてものは生まれなかったのさ。」
(続く)