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その自殺って、本当に自分の為にやってるのか


「あなたがやったことでしょう?」


そうやって叱られた。
壁も天井もない真っ白な部屋で
泣いて、どうしようもなくて泣いて
うなだれる私に
ある人が、そう言って叱ってくれた。


ゆっくりじっくり見てみた。
何が起こっていたのか。
何を私はしていて、
何を私はされていたのかを。
細かく見てみた。

まだまだ見落としがあるかも知れない。
でも、確かに全て
私のやったことだった。



白い部屋を出て、私は決めた。

「私は、私のしたことの責任を負う。
私のした分だけを負う。
人の分は負わない。
決して人の分は負わない。」




戦禍で、その責任の全てを私になすりつけて
きた人がいた。私はその人に言った。

「あなたは、それがやりたかったのですね。
やりたくてやったのですね。」

「いや、違う。
やりたくないけど、やらないといけなかったんだ。
仕方ないじゃないか。そういうもんなんだ。」
その人は言う。

でも、確かにその人はやったのだ。
紛れもなく、やりたくてそれをやったのだ。
本当にやりたくなければ、やれるわけないんだから。
本当に自死すると決めてる人だけが、その道を行ってしまうように。


「目的は果たされましたね。
目的通りに、果たされました。
私もまた、目的通りだったのです。
ただ私の目的は、私のものではなかっただけ。
何も持っていない私がいけなかったのです。

これからも目的通り生きましょう。
私は私の目的を持っていきます。
あなたもどうぞ、これからも目的通りに。

もう二度と交錯することはないでしょう。
誰かがいないと果たされない目的を持った人と
私は会うことはありませんから。

私は私の分だけしか負えませんので。
自分の分を人に負ってもらおうとするその先に
私が心置きなく息ができる場所はございませんので。

それでは、失礼いたします。」



こうしてその場を去った私は思った。
これまでも、確かに自分がしたことだが、
これからもまた、自分でやっていくことなんだと。

ただ、大きな違いは、自死しようとするそのナイフが
誰かに渡されたものではないということ。
たとえ私のナイフであっても、使い方を誰かに
わざわざ教えてもらうことはない、ということだ。

悪いが私は、いつも自分のナイフを
自分自身に突きつけている。
誰か他の人が出る幕はもうない。
私は誰のナイフも持たない。
自分のナイフで手が塞がり忙しいからだ。


あの無限に白い部屋で叱ってくれたあの人は、
ずっと見ていたのだ。

「生きたい」といいながら、
自分のナイフでそこら中を刺し
血だらけになってる私を。
そのお粗末な矛盾に気づかない私を見て
呆れて果てて叱ってくれたのだった。


全て認めた私に、その人はこうも続けてくれた。

「じゃぁ次は、『死にたい』と言いながら、生き続けてごらんなさい。死にたいと自分にナイフを突きつけ、必死にそれを回避してみなさい。」


だから私はこうして
ナイフを突きつけて生きている。

ただ、これはとても難しいことだった。

「生きる」を言い張ると同時に、同じくらい「死ぬ」を言い張れないといけない。
「死ぬ」を本気で言えないと、本気で自分にナイフを突きつけるということも出来ないのだ。
甘さがやさしく邪魔をしてくる。
そこで悠長にやってると、
「そんなに死にたいのなら..」
と、嫌な囁きが聴こえてくる。痛くないナイフに変えることができる、耳心地の良い呪文が聴こえてくるのだ。このナイフを必死に回避するのもまた難しい。
なぜなら痛くないから。気づかないのだ、刺されていることに。そう、また、あの時の血だらけの私のように。



もう二度と、あの無限に広がる白い部屋は現れないかもしれない。でもそれでいい。またあそこに行けば..だなんて思わなくて済むから。

ただ、1人で歩くこの難題の道が、いつかまたあの白い部屋に繋がっていたらな、と少し思う。
この問題をクリアした時、どうやってこの難題をクリアしたか話せたらいいなと思うから。

解けるかわからない問題がスッキリ解けて
嬉しくって自信満々に手を上げた、子供の時のように。ただ、解けたことを話したいだけ。

でもきっと、あの人は何も言わないだろうな。
ズタボロになってどうしようもない私に
呆れ果てた時にしか話さないのだから。

普通、人は、「呆れてものも言えない」と言って
そのまま放っておくのだけれどね。



あの人だけは、もう二度と怒らせてはいけない。

「まぁ何より、あの人に怒られると怖いしなぁ」
そう笑いながら、
今日もせっせと己のナイフを磨ぎ、
今日もせっせと、今日のご飯を食べるんです。


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