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キミとシャニムニ踊れたら 第2話‐⑥「どうにかなるさ」


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 あたしと茜が知り合ったきっかけは、同じクラスだったからということ位で、ドラマも無ければ、友情を分かち合うエピソードも無い。 

 今思えば、茜はいつも必死だった。必死で食らいつき、必死で相槌を打って、話もちゃんと聞いてくれていたと思う。 

 それがウザいと言われたら、それまでなんだけど、それまでの一人称の朱音じゃなくて、アタシと言った彼女の言葉に私は何も言えなかった。 

 家に帰るといつものように、にーちゃんがあたしを台所で出迎えてくれた。

 「どうした?詩羽に殴られたか?酷い顔だな」

 「そうかな?そうかも」

 あたしは自分の部屋に戻ろうとしたが、一度立ち止まり、にーちゃんに話し掛けようとしたが、喉が言葉を拒絶していた。 

 喋っても、解決しないのでは?思いは伝わらないのでは?あたしはいつになく躊躇っていた。

 「行って来いよ」

 「にーちゃん?」

 「考えても仕方ないだろ?わかんないけどさ。晴那らしくない。」

 「でも・・・」 
 あたしの心を見透かすように、にーちゃんはあたしに言葉を掛けた。

 「どうにかなるさ。どうにもならなくても、晴那なら大丈夫」

 あたしはいつだって、誰かに支えられている。みんながいるから、頑張れる。その言葉にあたしの体は勝手に動き始めていた。

 「ありがとう」

 あたしは外に出て、自転車に乗って、茜の家に向かった。 

 茜の家には何度か、お邪魔したことがあったので、すぐにでも家は分かった。 

 考えてばかりじゃ、始まらない。言葉は伝えなきゃ、伝わらない。 間違っているかもしれないけど、届けたい。 

 あたしは茜に連絡もせず、彼女のマンションに辿り着いた。

 インターホンを押して、確認を取ったが、帰ってはいないようだった。 

 居留守という訳でもなさそうだった。  

 あたしはメッセージアプリを開き、茜の居場所を確認しようとした時だった。

 「晴那?」

 茜は丁度、帰宅していたようだ。 
 どうやら、近くのファーストフード店で夕食を済ませたように見えた。

 「何しに来たの?帰ってよ。茜は会いたくない」

 「あたしは・・・」

 またしても、言葉が喉に引っかかって、出て来ることは無かった。 それを察したのか、茜は近くの公園に行こうとあたしを連れ出した。

 その道すがら、冷静になったあたしは朱音にようやく、重い口を開けるようになった。

 「茜、あたしって、不器用なんだ」

 「知ってる」

 「あたし、目の前しか見えなくて。いつも、大切な物ばかりが失っていく」

 茜は無言のまま、頷いた。

 「でも、あたしは何も失いたくない。みんなが好きだから。もう、あの時みたいな後悔は二度としたくない。これがあたしだから」

 ありのままの言葉を茜にぶつけた。 
 包み隠さず、ただ、愚直な言葉に茜の反応は何処か、淡々としていた。

 「何で、そんなこと言えるの?」

 「茜?」

 茜は立ち止まり、後ろ向きになって、言葉を紡ぎ始めた。

 「悪いのは茜なんだよ?晴那の大事な物を傷つけて、晴那も傷つけた。晴那は眩しいよ。茜は・・・みんなみたいに強くない。ズルいよ、けど、一番ズルいのは、何もしてこなかったクセに勝手に秀才様に嫉妬している自分が一番ズルい。バカみたいな噂を鵜呑みにして、付き合ってると思い込んで、八つ当たりしているアタシなのに」

 「茜・・・」 

 初めて聴いた朱音の本当の言葉。あたしも同様に立ち止まり、後ろ向きに話す彼女の声に耳を傾けた。

 「秀才・・・・、羽月さんがそんな人じゃないことは分かってるよ。アタシも分かるもん」

 茜が初めて、羽月さんと呼んだ時、あたしの心は少しだけ軽くなった。

 「アタシは昔はこんなキャラじゃなかったんだ」

 「それは分かるよ。無理してるだろうなって」

 「分かってたなら、言ってよ」

 「言えないよ。頑張ってる人を否定はしたくないからさ」

 「何で、そこまで羽月さんにこだわるの?」 

 茜の言葉は正しい。あたしはそこまで他人に関心を持つ自分じゃなかった。そこまで、頑張る自分が一番分からなかった。

 「分かんない。分かんないけど、今手を離したら、もう、帰って来ないと思ってさ。それは茜も同じだよ。あたしは何も失いたくない。それに・・・」

 「それに?」 

 茜はあたしに問いかけて来た。

 「茜が頑張ってくれたから、あたし達は友達になれたんだよ。信じてくれなきゃ、友達になれなかった。茜の気持ちがあたしを動かしたんだよ」

 「晴那はズルいな。どうして、そんな寒いことを真顔で言えるの?」 

 鼻声になっている茜にあたしは彼女の前に回り込んだ。

 「決まってるじゃん。茜が大好きだからだよ」

 茜の顔はぐちゃぐちゃに化粧が崩れる程、大粒の涙を流していた。

 「ごめんね。晴那の大切なもの傷つけて、羽月さんの気持ちが分かってたのに、あんなこと言って、ごめん、ごめんね」

 あたしは無言のまま、茜を抱きしめた。 

 冷たくなっていた彼女の心を溶かすように、伝わっていく温もりの温度にいつかは羽月ともこうやって、分かり合えると信じたいと思えた。 

 言葉は言わなきゃ伝わらない。言葉は色んな意味があって、色んな思いが詰まっていて、全てが表面通りの意味を為さない。 
 面倒で厄介でどうしたって、言葉だけじゃ伝わらないこともある。 

 だから、あたし達はこうやって、慰め合えるんだ。言葉だけじゃ、伝わらない思いがあることを知っているから。

 その後、数分抱き締め合い、あたしと茜は別れ、彼女があたしを信じてくれたように、あたしを信じてくれた羽月の言葉を思い出した。  

「思う、思います。貴女ならできます。必ず出来ます、ですから」

 それがきっと、彼女の本心じゃないことは分かっている。 けれど、甘えるばかりが、友達じゃない。そんななぁなぁの関係はいつか、終わってしまう。  

 帰宅後、弟やにーちゃんに出迎えられ、ただいまと言ったあたしの次の言葉ににーちゃんは驚きを隠せなかった。

 「にーちゃん、あたしに勉強教えて」

 にーちゃんは戸惑っていた。昔から、寝てばかりでにーちゃんを何度も怒らせたあたしににーちゃんは困惑していた。

 「晴那が勉強?無理無理、無駄無駄。時間の無駄だよ」

 「いいから、〇プラやろーぜ」

 「ちょっと、黙ってろ」 にーちゃんは涼と遥を黙らせた。

 「あさひにーちゃん?」 

 涼の言葉には、動揺が滲んでいるように思えた。  
 にーちゃんはきっと、真剣なあたしの気持ちが届いたのだろう。
 一度悩んで、数秒後、にーちゃんはあたしの目を見て、話し始めた。

 「分かったよ。その代わり、ご飯食べてからだよ。手洗って来な。話はそれからだ」

 「ありがとう、にーちゃん」

 にーちゃんと涼と遥は、食堂に戻って行った。

 あたしを信じてくれる妃夜の為、彼女の信頼が欲しいとかでもなく、ただひたすらに出来ることをしたい。 

 そして、この思いがいつか、妃夜の心に届くと信じて、あたしは靴を履き替え、食堂へと直行した。

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