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あんたとシャニムニ踊りたい 第6話ー①「クレープ食べに行こう」

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 8月某日、私と暁は2人だけで、夏祭りを楽しんでいた。

 迷子にならないという理由で、手を繋いで、花火の会場に向けて、歩みを進めていた。 
 暁は焼き鳥を購入する為、一度手を放したが、私の気持ちは少しばかり、平静を取り戻していた。 

 「焼き鳥ご馳走様でした」

 「少しは感謝してよね」

 「そらそうですよ、羽月様」

 「やめて、その思ってない感じのノリ」

 焼き鳥を奢り、上機嫌の暁に私のツッコミは、どうもキレが悪い。 

 「それでさ、妃夜は食べないの?それとも、金魚すくいする?」

 「やらない、あんなお金の無駄遣いは勘弁よ。くじもやらないからね」

 「ケチだなぁ。ああいうのは、空気を楽しむもんなのに」

 「空気を楽しむって、何?」

 偶に暁の話していることは、意味が分からない時がある。 
 それはそうだ。私と彼女は違う人間なんだから。

 「なんで、暁は甚平なの?」

 「いや、着やすいからだけど」

 「そういうことじゃない。何で、浴衣じゃないの?」  
 暁は見たことない位、紅潮した表情を浮かべていた。

 「もしかして、恥ずかしいの?浴衣着るの?」

 「わ、悪いか。だって、あんなヒラヒラしたもん着られるか。動きづらいし、何より、か・・・可愛い服はあたしには似合わないって言うか」

 言うて、浴衣って、ヒラヒラしているかと思ったが、こういう所は女の子なんだなと思って、口角が上がっていた。

 「な、何で、そんな変な顔すんだよぉ」

 「へ、変な顔って、何よ。ただ、あなたが意外と乙女なんだなって」

 「やめろ、それ以上恥ずかしい話禁止!」

 「は、恥ずかしい話って、何だよ」

 暁が嬉しそうで、何故か、私も嬉しかった。 彼女の人間らしさが感じられるのは、私も何だか、楽しい。 これはきっと、真夏のせいなのか?

 私は何も買わないまま、此処まで到着してしまいそうだった。

 「妃夜、たこ焼き買おう」

 「いや、要らないけど」

 「あたしが買いたいの」

 「いや、あんた、お金」

 「良いの!まだ、1200円あるし」

 暁は、近くのたこ焼き屋さんで、商品を購入した。

 「これでいいでしょ。一緒に食べよう」

 「箸は?」

 「同じの使えば良くない?」

 「私、そういうの苦手って、言わなかったっけ?」

 「そ、そうだった。ごめん、おじさん、もう一つお願い」

 「はいよ」

 店員さんから、箸を貰い受け、私たちは店を後にした。

 「暁、そろそろ、行かないと良い席が」

 「それもそうだね。そろそろ、走るか」

 「危険だから、やめなさい」

 「えぇ~」

 「少し急ぎ足で行きましょう」

 「じゃあ!」

 暁は右手を差し出した。

 私は差し出した彼女の右手を握り、再び歩み始めた。

 一歩一歩、進む度に彼女の湿り気を帯びた右手の熱さが伝わって来る。 
 その度に私がこれまで、忌避し続けて来たものは、何だったのかと思い知る。
 彼女のぬくもりが、私を強くする。 
 人の熱の温かさが、何とも心地よくて、このまま、世界の果てまで、逃げ出したい。 
 あなたとなら、何処までも、走り出せそうなそんな気がしていたから。

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