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キミとシャニムニ踊れたら 第6話ー③「こういう時間」
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その日は妃夜と目は遭っても、話しかけることは無いまま、教室を後にした。
部員全員を集め、今日は競技場内での陸上部のミーティングから始まった。
「今日から、〇〇中女子陸上部部長に就任しました。暁晴那です。これから、宜しくお願いします」
顧問の小松先生他、女子陸上部員含む全員からの拍手を貰った。
あたしの挨拶の後、朝が登壇し、挨拶を続けた。
「副部長の朝です。駅伝大会は優勝しか眼中にないので、そのつもりで」
朝の直球過ぎる言葉に、委縮したものも居たが、小松先生もОGも他の部員も、それを静止するものは誰も居なかった。
「それじゃあ、ストレッチ始めるぞ」
「はい!」
これから、あたし達の時代がやって来る。中学生生活最後の一年が幕を開けた。
今日は短めの時間での練習だったので、終わったのは、夕方過ぎだった。
小松先生とのミーティングも終え、ようやく、朝と帰宅しようとしていた。
「おっつー、せなっちょ、うたっちょ」
「二人とも、お疲れ」
宝多先輩と三好先輩があたし達を待っていた。
「ありがとうございます。待ってくれて」
朝はふてくされた表情を浮かべていた。
「美世先輩、代わって下さい」
朝らしくない弱気な言葉に三好先輩は柔らかな言葉でエールを送った。
「だーめ。朝ちゃんが、全国に行く為でしょ。」
「えーーー」
正直、朝はこういう面倒事はやらないと思っていただけに、推薦された際は、率先して引き受けていた時は驚いた。
練習よりも、明日の練習の打ち合わせに疲れていたんだろうか。
この時期は国体に出る選手もいるが、基本は来年に向けての体づくりがメインだ。 明日の打ち合わせや部員の見守りから、どうだったかの確認に至るまで。
大変なのは、これから。こんな所でヘタレているわけには行かないのだ。
「まぁ、アタシの部長時代に比べたら、よくやってたんじゃあないかな?」
「佳乃、そういうところ」
「あたし達、先輩がいなくても、頑張りますから」
「晴那は気張り過ぎ、もっと気ぃ抜け」
朝の言う通りだった。正直、未だに緊張が抜けない。今日は動きが悪かったからだろうか。
全国以降、調子がどうもよくない。今は部長として、しっかりまとめないといけない。何故なら・・・。
「それにしても、晴那はうめっちょに相変わらず、嫌われてたにゃあ」
「櫻井ちゃん、バトンパスの時、わざと落としてたものね」
「そう・・・ですよね」
「いやいや、暁ちゃんが悪いわけじゃなくてね」
「いや、せなっちょが悪い。これを乗り越えずして、部長の道は遠いぞ」
「あははは」
陸上部1年4組の櫻井梅。担当種目は短距離100mと200m。
リレーも補欠メンバーだが、協調性皆無な所や自己主張が激しい為、リレーには出場したがらない。
記録も叩き出せてはいるものの、如何せんムラもあり、やる気も無い。
「まぁ、ぼちぼちやっていくしかないわな。頑張れよ、部長」
「はい」
宝多先輩には懐いていたし、短距離担当の福岡先輩には懐いていた。
あたしにだけは、どうしても、風当たりが強く、嫌われているんだろうなという自覚はあった。しかし、お互い、中学生なので分かり合うことは無いのだと。
皆、駐輪場に到着し、帰ろうとした時のこと、あたしたちの前に中村達が待機していた。
「よぉ、晴那。おっせぇんだよ」
「何の用?帰りたいんだけど」
中村はあたしに指を差し、役者がかった大声で、こう宣言した。
「今度の体育祭、アタシと勝負しろ」
「いーよ」
「いやいや、軽すぎだろうが」
「じゃあ、お疲れぇ」
「待て」
いつもの中村とは違う声色で、あたしを静止した。
「何だよ」
「この勝負に負けたら、お互いの言うことを何でも聴く。それでいいな?」
「いいよ」
中村は本気のようだった。
あの時とは違う声色なのは、彼女も腹を括っているからだ。
「あばよ」
中村達は無言のまま、自転車を走らせ、その場を後にした。
「おいおい、せなっちょ。いいのかよ」
「何がですか?」
「久々に観たけど、アイツ、ガチだぞ。いつも走り込んでるせなっちょでも、厳しいな、ありゃ」
「そうかもですね」
「暁ちゃん・・・」
皆が心配するのも、無理はない。
あたしとあいつは、昔の因縁がある。それを心配してのことだろう。
「必ず勝ちますから」
その言葉とは裏腹に、あたしの瞳は暗く霞んでいた。
「どうでもいいけど、何で勝負するの?」
朝の何気ない言葉に、あたし達は沈黙を貫くしか無かった。
「じゃんけんじゃない」