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キミとシャニムニ踊れたら 第5話ー②「ブーメラン」


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 午後6:28 花火大会観覧会場。 
 既に席は満席で、座る余地など、何処にも存在しなかった。

 「あちゃー、やっちった。妃夜が走らないなんて言ったから」

 「それ以前の話でしょうが」

 「そうだけどさ・・・」

 妃夜は手を放していた。

 「帰りましょう」

 「えぇー、此処まで来てぇ」

 「もう、疲れた。正直、しんどい。暁の家に戻りましょう」

 夏祭りのような人混みを嫌う彼女が、此処まで無理して来たのだ。 
 今は彼女の思いを尊重すべきなんだ。 

 「あっ、あの席、空いてるよ」

 「えっ・・・」 
 三人座れそうな位置を発見してしまい、私は妃夜を席へと連れて行ってしまった。

 「座ろう」

 彼女は席に着いた。

 「さぁ、たこ焼き。そうだ、飲み物買ってくる。喉カラカラ」

 「待ってる。私、お茶」

 「りょーかい、直に戻るから」

 あたしは彼女が席に着いたことを確認し、

 あたしは近くの販売所に向かい、飲み物を買おうとしたが、その刹那、全てを悟った。 彼女を一人にしてしまったことを。 
 妃夜は、人混みに慣れていない。それなのに、あたしは大丈夫と言った彼女の言葉を鵜呑みにしてしまった。 
 今重要視すべきは、飲み物ではなく、彼女の隣にいること。 
 そう思ったあたしは飲み物を購入することを辞めて、妃夜の下に戻ることを決めた。

 戻ってみると案の定、彼女の表情は暗く曇っているように見えた。

 「妃夜!妃夜!」

 訴えかけると虚ろいだ瞳であたしを見つめる彼女が居た。

 「帰ろう、今日は帰ろう」

 「で、でも、花火が」

 「いいんだよ、花火なんて。また、来年だよ」

 あたしはしゃがみこんで、視線を合わせた。

 「おぶって帰ろうか」

 「い、いやだ。みんなが」

 どうやら、相当無理しているように見えた。

 「いいから。鼻緒が切れた人と思えば」

 妃夜はあたしの背に乗り、立ち上がり、彼女を運ぶことにした。

 「すいません、通りまーす!」

 あたしは彼女を乗せ、少しでも落ち着く場所まで、運ぶことにした。  
 あたしが2人で行きたいと言ったばっかりに。キミをこんな目に遭わせるなんて。 
 他の皆と行動するより、きっと、2人の方が落ち着くと思ったから、こうしただけなのに。今となっては、全てが逆効果だった。  
 本当にキミを助けたいなら、皆を頼るべきだったのかな?

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